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カイトはハッと息を吐いた。
夫婦は襲撃者が来たことを察知して、とっさに子どもたちを戸棚に隠したのだろう。自分たちは隠れる余裕がなく、せいぜい子どもたちを隠した場所を守ることしかできなかった。
夫婦を殺した襲撃者が子どもを探そうとしたところで、俺たちが村に入ったことを察知して逃げた。そんなところか。
商品を救えることはめったにない。
大抵は子どもや妻を取られて、悲嘆に暮れている村人が残されているだけだ。
二人の子どもはまだ一歳くらいに見えた。栄養不足による発育不良を加味しても、二歳は越えないだろう。
よく大人しく戸棚に入っていたものだ。
それとも、こんなに幼くても、恐怖を感じ、動くことが出来なかったのか。
リョーコはしばらく黙って二人を見ていたが、カイトの方を振り返って尋ねた。
「この子たちはどうなる?」
カイトは首を傾げて、答えた。
「よくて、養護施設?だけど、国境を越えられるかな」
その国の人間を勝手に外に出してはいけない。たとえ両親を失って天涯孤独になった二歳にも満たない幼子としても。
下手をすれば、この国の施設に放り込まれる。内戦で混乱したまま、機能していない児童施設にだ。
だが、どうしようもない。
ここに置いていくよりは、はるかに生存率は上がるだろう。
リョーコはまた二人に視線を戻し、じっと見ていたが、意を決したように一人の子どもに手を伸ばした。
そっと抱き上げると、カイトに差し出す。
カイトが受け取ると、リョーコはもう一人を抱き上げた。
「二人を連れて帰る」
報告のようにリョーコがそう言ったので、カイトは無線機を取り出した。
「ああ、じゃあ応援呼ぼうか」
だがリョーコは「やめろ」と制止した。
「誰にも知らせるな。わたしたちが乗ってきたやつで帰る」
「は?」
カイトは意味が分からず、真顔でリョーコに訊いた。
隠してどうすると言うのだ。
ここは応援を呼んで、子どもたちをひきとってもらい、組織のものが近くに隠れていないか捜索してから、帰るべきだ。きちんと後始末をしないと、中途半端な狩りをした奴らは、またこの村を狙うだろうし、最悪居座ってしまう。
リョーコらしくない。
リョーコは至極真面目な顔で、カイトを見つめた。腕に抱いた子どもを、抱きなおす。
子どもはまだ意識を失ったままだ。
「少しの時間差でいい。この子たちを隠せる時間だけで」
カイトは信じられない気持ちで聞いていた。
それでは俺たちが誘拐したことになる。
「リョーコ」
カイトは改まった顔と声で、相棒を呼んだ。
「こんな子どもはたくさんいる。この二人を助けたところで、所詮ただの自己満だ。それともこれから先、そうやって助けた子どもを皆引き取る気か?」
「こんなこと分かっていると思っていたが」と、カイトが付け足すと、リョーコは「もちろん」と即答した。
「おまえな」
カイトがいよいよ腹をたて、リョーコに詰め寄ろうとした時、遠くでエンジン音が聞こえた。
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