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カイトが子供二人を抱え、助手席に乗り込んできた。たちまちギュウギュウ詰めになる。
リョーコは車を発進させた。
「後ろの二人乗せていくのかよ」
カイトが眉を寄せて、文句を言った。
荷台にはマシンガンの男二人が倒れたまま、乗せられている。意識もなく、瀕死の状態だが、息はまだあった。
「村の外にトラックごと置いておいた方が、助かるかもしれないでしょ」
リョーコが軽い調子でそう言いながら、スピードを上げる。後ろではガコンガコンと重い物が跳ねるような音が聞こえた。
こっちの方が、死んじまうだろ。
カイトはそう思ったが、何も言わなかった。
要は、荷台から下ろすのが面倒だったのだろう。リョーコの足元には、やつらが持っていたマシンガンが見えた。
「……その子たち、何も見なかった?」
うってかわって、リョーコが気づかわしげにそう訊いてきた。
「ああ、離れていたからな。布をかぶせていたし、大丈夫だろ」
カイトが撃ったのは見たかもしれないが、
敵に当たったところは見えていないはずだ。そのくらいは離れていた。
「それでこの子たちをどうするつもりなんだよ」
結局、連れてきてしまった。まぁ、あそこに置いておくことは出来なかったにせよ、味方に報告しそびれている。
リョーコは何も言わない。このまま、本当に連れて行きそうである。
しばらくして、「フッ」とリョーコが笑った。
「わたしの子…わたしたちの子として育てる」
カイトは隣を見て、ため息をついた。
わたしたち。
二人の子どもは、リョーコと自分の間に挟まれていい子で座っている。目は開けているが、自分たちのことを話されているとは、分かっていないようだった。
「自己満?偽善?わたしの今の気持ちを、そんな言葉で台無しにしないで」
リョーコはカイトの方を見ていなかったが、その言葉はカイトを怯ませた。
「あの子たちを見つけたとき、これは運命だと思ったの」
口調は淡々としていたが、腹を立てているようにも聞こえた。
「ここにわたしたちが遅れてきたことすら、運命だと思った。それを下らない理由で、なかった事にはしないわ」
運命……俺は単に彼女に拾われた子どもたちに嫉妬しただけかもしれない。
仕方なく、別方向から攻めてみる。
「おまえ、もうすでに二人子どもがいるだろうが」
「だから?」
「俺たちのようなのは、そういう弱みを持っちゃいけないっていうのは、鉄則だぞ。増やしてどうするんだよ」
「そんなの、誰が決めたのよ」
「おまえを脅すための材料にされるっていうんだよ。大昔からの常識だろ。敵を屈服させるためには、敵の弱みを握るのが一番だってね」
同業者ならまだしも、リョーコが選んだ相手は一般人だ。
リョーコは笑った。
「その時は、潔く原因がいなくなるよ」
そう言ったリョーコの目は、微塵も迷いがなかった。
厳かに言い放つ。
「今日からわたしが、この子たちの母親だ」
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