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3話
男はビルの屋上でライフルを横に置いてひっくり返っている。
ザザッ──
砂嵐ばかりを流していた無線機が音を拾い始める。
「こ…は、きん…応答せ…」
そばにいた持ち主は無線機を拾い上げダイヤルを回し、周波数を合わせようと試みる。
ガガッ
「こちらはキング、オウル応答せよ。」
と男の声が鮮明に聞こえるようになる。
「こちら、オウル。状況は?」
「連中はわざわざ潰しに来てくれるらしい。配置に着いてくれ。」
「了解、ジョーカーはどうなりました?」
「想定より多少少ない程度だ、なに戦力的に見るだけなら若干脆くなってると見て構わん。まぁ、メイクは少なくなった分質の方を上げてくれるそうだ。」
「なるほど、それは感謝しなければですね。では」
「はいよ」
と言い若い男─キングの声が砂嵐の中に消えていく。
「さて、今回はどんな想定外が起こりますかね?」
と言いつつオウルは屋上の屋根にのりライフルを構える。正体不明の組織に日本が宣戦布告される1時間前──
葛城と米倉はあるところに来ていた。
防衛省直轄の対異能武装組織「アドラメレク」
葛城の所属組織であり、米倉の雇い主。
表向きは各省庁の清掃会社、裏を見れば対異能戦闘の精鋭集団。
世の中何処がどうなっているのか割りと想像つかないものである。
二人はその社長、正せば対異能小隊小隊長に会いにきたところである。
「おい、葛城ぃーまた小隊長の小言聞かなきゃ行けないの~?」
「そりゃもちろん、被害食い止められなかったし、危険指定人物とも接触したみたいだしね。」
と、突然後ろから声が掛けられる。
「まずっ──!?」
「まじかっ──!?」
米倉は振り向きざまに頭を掴まれ宙ぶらりんになり葛城は額にデコピンというには威力が高すぎるデコピンを食らう。
「ちょちょちょぃちょぃ!いだいいだいいだぃぃぁぁあ!」
「──っいったぁ!?」
米倉は操り人形よろしく両手両足から力が抜けた状態で叫び声のみあげ続ける。葛城の方は本気でやれば車のドアをぶち抜くほどのデコピンを食らい、手加減とは言えども相当の痛みだったらしく額を押さえて転げ回っている。
「米倉ぁ…危険指定人物にあったらどうするんだっけか?」
「逃走か連絡です!と、とりあえずその笑いながらキレてる顔止め…ぎぃゃぁぁぁあ!」
米倉を片手で掴んでる男の顔には笑いと血管が額に浮かんでいた。
「言うこといつも聞かねぇよなぁ、、?お前よぉ…?何時になったら聞いてくれるんですかぁ?」
「しぬっ!本気で頭蓋が逝くっ!割れるっ!しぬぅぅぅう!」
「ほらほら~幼児でも普通怒られたら次にすることわかってるよー?」
「すいませんでした!餅田さん!ストップ!まじで!すいませんでしたぁぁぁぁあ!おひゃぁぁぁあ…」
米倉が謝罪をした瞬間、そのまま片手でぶん投げられる。向かった先は勿論ゴミ箱。だが米倉は体制を器用に立て直して──
そのまま腰からゴミ箱に落ちた。腰が折れるようにすっぽりと。
「ほぁぁぁあ!?しぬっ!これはまじで死ぬ!ヘルプ!まじで!」
「知るかボケ、もっかい能力使って出てこい。あ、それぶっ壊したら弁償な。ところで葛城。」
背中から畜生!だの弁償は嫌だ!だの悲痛な叫びを聞きながら餅田は半泣き顔でデコピンがヒットした位置にできたたんこぶを撫でている葛城に声をかける。
「梅原と会ったんだよな?予想出来そうな能力は?」
「はぃ…米倉からの情報では空間を操る能力と思われます。彼は我々を視認したと同時に自分の周囲を爆破したと思われるので爆発系の能力も持っている可能性があります。」
「爆発系か…厄介だな。他は何か報告したいことは?」
「そうですね…あ、あの…」
「司令!」
と葛城が質問を口にだす前に長身の女性が慌てた様子で駆けつけてくる。
「どうした?何か…」
「各テレビ局や、省庁にこんなものが!」
といいつつタブレットを渡す。
とその時、派手な音と共にゴミ箱を壊した米倉があぁ弁償してやろうとも!とかなんとかいいながら近づいてくる。
「んで?なんかあった?」
米倉の気の抜けた声に餅田は深刻そうな面持ちで答える。
自分が事実と思いたくない答えを。
「いってくれねぇのかよ。全くケチな───は?」
液晶を見る米倉の手は震え瞳孔は限界まで開かれている。そして、呼気と共に絞り出すようにして自分の目の前で絶命した彼の呼称を口にする。
「じ……じぃちゃん……?」
「そう、今報告された映像に死人となったはずの緑丘秀作氏が映っている。そして、後で映像を見て貰うがこれは犯行声明であり、犯行を行うのは指定危険人物とされた組織、十二の切り札だってことだ。」
「そん…な、嘘だろ…」
米倉は必死の形相で自分の義祖父の身が潔白であるという主張を開始する。
「人形かもしれない!」
「肌の質が違う。」
「CGってことは!?」
「この見た目じゃないだろう。」
「操られていることは!?」
「ないとは言いきれんがあるとも言えんだろう。操られてないと判断するのが妥当だ。」
「声は!声はどうなんです!」
「声か…米倉以外耳を塞げ。」
餅田は声というワードに引っ掛かり検証しようと試みる。秘書は素直に塞ぐが葛城は不服そうにする。
「どうして聞いちゃいけないんです?」
「そういう異能だ。殺されたくなければ塞げ、さもなくば離れろ。」
有無も言わせない餅田の物言いに葛城は渋々耳を塞ぐ。そして、イヤホンを米倉につけさせ、再生を押す──
────
緑丘はソファーにもたれ掛かりこの世に君臨する悪そのもの、といった顔つきで対面している梅原を見やる。
「送ってくれたかい?梅原」
「送ったよ…お前の養子の職場にもな。」
「ははははは!そうかそうか!しっかりやってくれたか!それはさぞかしあいつも驚くことだろうよ!自分が看取った相手が!自分が長年寄り添って貰ってきた相手が!」
高揚しきった声をあげ一通り興奮を吐き出した後、落ち着いた声で続ける。
「自分の主の敵、いや下手をすれば全世界の敵になろうとしているのだからな。」
切り札の使い方を決めるプレイヤーであり、思考能力、戦闘能力、その他多方面で世界屈指の実力を誇る者は既に世界各国の至るところに仕込んだあるものを作動させるタイミングを今か今かと待ちわびていた。
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