その3

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その3

しばらくして。  警察官が男を連れ、やってきた。そして、自分と男が向かい合い、その左右を婦警さんと警察官が固めるという図式になる。  早速、男が口を開いた。  「おい、これどうするんだよ」  「…どうとは?」  「どうもこうもねぇよ。皆、おめぇのせいでこうなったんだろうが。このくそ暑い中よ、警察なんてもっと他にやることあるのによ。俺は別にいいよ?何時間付き合ってもよ。でも、警察は違うだろうよ。申し訳ないと思わないか?」  「はぁ…」  「はぁ、じゃねぇよ。謝れよ」  「(なんか腑に落ちないなぁ。首をかしげながら)すみません」  「まぁ、今回は初犯だから勘弁してやるよ。だが次やったらしばきに行くからな」  「……しばくんですか?」  「ああ。もう、今後このようなことがないようにしろよ!!」  「具体的にどうすれば?」  「紙に書いとけ!!紙に書くんだよ!!『もう、車道を歩いちゃいけません』って、紙に書いて壁に貼っておくんだよ!!お使いの時のメモみたいによ!!そうすりゃもう、忘れねぇだろ!?壁見るたびに『あ、車道歩いちゃいけないんだ』ってなるだろ!?」  「…それでも駄目なら?」  「そん時は――」  「しばくんですよね?」  「いや…しばかねぇけどよ…」  「…え、しばくんじゃないんですか?」  「しばかねぇよ!!」  「でも、あなたさっきしばくって言いましたよね?」  「そりゃ…」  「言いましたよね?」  ここで急に男はしおらしくなった。さっきまでの威勢は何処へ行ったのか。  「(視線を泳がせながら)言ったけどよ…」  「どうしたんですか?しばくんですか、しばかないんですか?」  「…」  「そこだけはハッキリさせましょうよ。気になって何もできなくなるじゃないですか」  「いや…だから…」  「しばくんですか?しばかないんですか?」  「…」  「…」  「…」  「…だめだ、こいつ、わかってねぇ」  男が諦めたように、向こうに首を回し始めた。  そして、また、二人の警察官に俺らは引き離された。  「…今度こそ、帰っていいですか?」  「いけませんよ」  ここから先の会話は覚えていない。とにかく、「帰せ」、「帰さない」の押し合いで言い合っていた。そんな矢先、自分は視界の端でとんでもないものを目撃した。  男が向こう岸に帰り始めていたのだ。  信号無視して。  俺は開いた口が塞がらなかった。  何なんだ、あいつは。あいつこそ何がしたかったのだ。散々人の足止めをしておいて、こんな不愉快な思いをさせ、理詰めにしてやる――とか散々説きながら、自分のことを棚に置きながら、自分は信号無視か。ああ、今、思い出しても腹が立つ。  そこに警察官がやってくる。警察官と婦警さん、自分の三人になったところで、俺は開口一番に口を開いた。  「何なんですか!あれ!?人のことを散々言っておきながら信号無視してるじゃないですか!?」  「まぁまぁ…」  「まぁまぁじゃないですよ!!あんたら警官でしょ!?なんでとっ捕まえないんですか!?なんで言いまくってる時も止めようとしないんですか!?」    「我々、警察は民事には手を出せないんですよ。だから、どうすることもできない」  「どうすることもできない!?なら、口頭注意くらいはできるでしょうが!!それすらもできないんですか!?」  「それも民事に入るんです。だから本当にどうすることもできない」  「どうすることもできないって…じゃあ、俺はどうなるんですか!!俺はあの馬鹿に時間を割かれたんですよ!?暴言まで吐かれて!!」  「いや、だから…」  「~~」  「…」  「~…」  「…」  「…もういいです。帰って寝ます」  こうして肩を落とし、帰宅することになった。時刻は最後に確認した十七時前後を回り、家に着いた時には十八時五十分頃になっていた。単純計算で一時間四十五分も拘束されていたことになる。  貴重な時間がパァになった。本当に。  この怒りをどこにぶつけたらいいか、何処に愚痴ったらいいか本気で分からなかった。なので、その晩はたまたまかかってきた北海道の友人に吐露することとなった。  事情を聴いた友達は電話越しでもわかるくらいに爆笑し、  『信号守ったのに土下座とかマジ受けるわ~っ!土下座姿見てみたかったわ~』  と、苦笑いせざる反応をいただくこととなった。  全く、あの腹立たしいイベントは一体何だったのか、なんで、俺も、理路整然と立ち向かわなかなったのか。ひたすら受け流していたのか、しかも、その受け流し方が下手という、本当に自分自身が謎だった。  警察は警察で本当に役に立たない事が今回のことでわかったし、ああいう時には立ち向かうべきだという事がわかったし、ああいう時には立ち向かうべきだという事がわかった。  尚、この出来事を知り合いの武闘家に話したところ、  『警察から注意された段階でとっととその場を離れれば良かったのに…君子危うきに近寄らずだよ』  と、ありがたい言葉を受けることとなった。まったくもってその通りだ。あんなのに構っていたら本当に男を無視して去ればよかった。今、悔やんでももう遅い。とにかく、ああいう事態になったら去ること、相手に流されないことを、言うべき時は言うことを学んだ。とにかく、今後はすぐに逃げよう・・・
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