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新しい彼
「二人でご飯に行かない?」
山上先輩は真剣な顔になった。
「え?」
「リベンジ。きっと東雲さんと一緒だったら楽しいから」
名前まで呼んでくれて。きっと先輩はこういうこと、慣れているんだろうな。
ああ、人を縛ってみたい、とわたしは思った。
本当はわがまま聞いてもらって、理不尽なことを言って許してほしい。先輩は優しいから、許してくれるかもしれない。
わたし、怖かったんだ。縛って相手の心が、彼の心が離れることが。
もっと信じれば。
「前に聞いた君の恋愛観、とても納得できるよ。僕たちが付き合ったらかなり長く続くと思うよ」
お付き合い前提のご飯。
残念だけど、きっと長く続かない。
寂しさに耐えられない。もし先輩がバイトを辞めたら、別れるかもしれない。多分、会う回数の減少とかで。
そうだ、もしそのときまで柳くんを忘れていなかったら、復縁を申し出よう。これまで上手くいっていたわたしならこれまで以上に会いにいけて続いていける気がする。毎日かどうかは分からないけれど、そう信じたい。
わたしはふと山上先輩を見た。
わたしの顔を下から覗くようにして返答を待っている。どうかな、と聞きたげに微笑んでいた。
「分かりました。予定が分かったら連絡しますね」
わたしは先輩を上目遣いで見つめて言うと、会釈をして先輩の横を通り過ぎた。
わたしは大きめのため息をついた。もうわたしには鞄の中の予定帳を取り出す元気はなかった。
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