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「わたしたち…」
しかし、それを忘れるような大事件が起きたのはそれから一週間ほど経ったときのことだった。
このころには週に数回互いの家に泊まることが習慣になっていて、その日僕はノノの部屋に泊まることになっていた。
バイトの帰りにノノのアパートに行き、入浴、夕飯を済ませて家事を一通り二人でこなし、コンビニで買ったおつまみのピーナッツをかじりながら晩酌をスタートさせたころのことである。
「ねえ、ナギ。ちょっと小耳に挟んだんだけどさ、この間ゼミの同期の子と遊園地に行ったんだって?」
突然、ノノがそんなことを言ってきたのだ。
僕の心臓は急に鼓動を速めた。
どうして知っているの? 当然話してもいないし、写真も見せていないし、行く前に読んだ「パーク完全攻略ブック」もうちに置いておいたはずだ。
もしかして、浮気を疑われている? いやいや、そんなわけない。っていうか、そもそもやましいことなんて何もない。
でも、ノノは何かあるから訊いてきたんだ。
もうここは素直に。
僕は持っていた酒の入ったグラスをテーブルの上に置いた。
「ごめん、黙ってて」
僕はするすると椅子から降り、膝をついて頭を下げた。
「言いたくないことは言わなくていいんだよ」
ノノも椅子から降りて僕の横にしゃがむと、丸くなった僕の背中に優しく手を置いた。
「でも、こういうことって彼女には知らせておくべきだったよね」
「気にしないで」
優しいノノは一切咎めなかった。手を背中に置いたまま、ゆっくりとさする。ほっとするような手の温もりがじんわりと伝わってきた。
そして、優しい口調で。
「わたしたち、もう潮時かも」
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