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彼女のいないリビングに
僕はリビングに戻った。
「こんばんは、三葉くん」
僕は驚いて少し後退した。さっきまで空だった窓の前のソファに人がいたのだ。
「桃上さん! どうして……」
生霊かとも思ったが、違うみたいである。髪の毛に付いていた桜の花びらがひらりと床に落ちた。
彼女の少し奥を観察した。ひらひらとレースのカーテンが揺れて、その隙間から窓が開いているのが見えた。
「まさか、君、そこから?」
「悪い? もう遊園地デートにも行ったんだよ。三葉くんも元カノさんと別れたんだし、わたしはもう彼女だよ。だから彼氏の家に入ってても問題ないでしょ」
何なんだ、彼女の倫理観は。僕は眉間にしわを寄せた。
しかし、彼女の方は悪いなんてこれっぽちも思っていないようで、ネイルの綺麗な爪をいじって一階で助かったよ、なんて言っている。
「全然気付かなかった……いつから?」
「三十分ぐらい前。まあでも安心して。部屋に入ったのは元カノさんがお手洗いに立ったときだから今から十五分ぐらい前だから、イチャイチャは見ていないよ」
「そういう問題じゃ……」
僕はため息をついた。しかし、彼女の方は気にしていない様子だ。
「そうだ、合鍵近いうちに頂戴ね」
「悪いけど、ノ――曙ちゃんにも合鍵は渡してなかった」
「じゃあ、わたしは最初に合鍵を貰う彼女ね。嬉しい」
天井のないポジティブシンキングだ。
桃上さんは突然ソファから立ち上がった。
「そうだ、三葉くん。洗面所どこ? ベランダの柵をよじ登ったとき、手に土が付いちゃった」
僕はそっち、と廊下の方を指した。
すると、桃上さんは一応礼だけは言って、跳ねるように洗面所に入っていった。
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