【9話】介抱

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【9話】介抱

「先生、着替えに来ました」と保健室の引き戸を引くと「あ、調度良かったわ、今から職員会議だったから。奥のベッドで着替えてね」と、先生が窓際のベットを指しながら言う。 「分かりました」 俺は頷き先生に腰に貼る為の湿布が欲しいと伝えると三枚手渡され、先生はそのまま保健室を出て行った。 ◇┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◇ 「·····何で中まで来るの?」 仕切りのカーテンを閉めようとしたのに何故か烏間が中へと入って「怪我、見せて」と、ベットに座って烏間は言い、俺は「なんで?」と訝しむ。 烏間は手当てがしたいと言うが、俺からしたらこんな怪我は慣れている。だから「こんなの自分で出来るよ」と烏間の申し出を断わった。 しかし、烏間も曲げない。 「·························。」 俺と烏間の主張は交わらず平行線のままこのやり取りは続き、やり取りが面倒臭くなった俺は烏間に背を向けて上着のジャージを脱いで体操服を脱ごうと下から捲るが烏間の手が俺の腕を掴んだ。 「ぇっ?!」 驚いて声が出て···次の瞬間には、ぼすんっ!と音を立て、うつ伏せになる様な形でベットに投げ出された。 烏間はそんな状態の俺に馬乗りになる。 「な、何するんだよっ!」 逃れようと暴れるがビクともしない。 「蒼が怪我を見せずに脱ぎ始めたからだろ」 少し苛立ちを含んだ言い方をして烏間が俺の体操服を下から捲り始める。 「ちょ、嫌っ!いやっ、辞めてッ!!は···離せよッ!」 必死に嫌だと叫ぶが全然聞いて貰えず、烏間は体操服を首元まで捲り上げた。 しかし、黙ったままで何も言わない。 烏間は今どんな表情をしているのだろう······。 「·······························。」 こんなの見ても何も面白くないのに·····と、俺は暴れるのを諦めて枕に顔を埋める。 「··········ここがさっき先生に言ってた怪我か?」 烏間は背中にある痣を指で触れてきたようだが、その指が凄く冷たい。 突然のヒンヤリとした感触で「ひぁッ!!?」と、変な声を上げて俺の身体が反射して動く。 「大人しくしてろよ」 烏間は耳元でそう言うと湿布からフィルムを剥がす音が聴こえてきて、俺の痣になっている部分に貼るが···さっきの烏間の指より湿布は冷たい。 「·····ッ、ん····ん”······ッ」 俺の口からは声が出てしまう。 「後は脚と腹だな」 烏間がまた俺の耳元で囁いてきた。 「〜〜〜〜〜〜〜ッ!」 俺は恥ずかしさと耳元で囁かれた事で顔がかなり熱いッ! もう、沸騰してるんじゃないか···って位には。 さっきからワザとやってきてるのか? 耳元で話す烏間の声は低くく、少し掠れて色っぽい········。 聞いてるこっちはドキドキしてしょうがなくなる。 「脱がすぞ」 「えっ?!ちょ、ちょっとまって!」 驚いてる間にうつ伏せから仰向けの状態に変えられ、ジャージの長ズボンをおろされそうになったが、俺は見せたくなくて必死に藻掻く。 「だっ、だめ!!ズボンだけはっ」 「チッ、暴れんなよッ」 烏間は舌打ちをしつつ俺の両手を片手で拘束して長ズボンを脱がす。 「ゃ⎯⎯⎯⎯⎯⎯···· 、 」 長ズボンを膝下までおろされ、痣だらけの脚が露になるがその痣を見て烏間の目が見開く。 「·······································。」 無言のまま烏間の眉間の皺が深さを増した。 目が凄く怖い···引かれたかな、、、、 烏間と目を合わすのが怖くなり俺は顔を背ける。 「こんなの·····子供にする事じゃねぇよ···ッ」 烏間は辛そうに言い灰色の目が曇った。 俺はこういう時、何と言えばいいのかさえ分からず無言になる。 物心着いた時からこれが当たり前で他の家庭の父親なんて知らない。 「はぁ··········脚の湿布と腹の湿布取ってくる」 烏間は拘束していた手を解きベットから降りると湿布が収納されている棚へ歩く。 棚から数枚湿布を持って来ると俺に座るように言ってきて「分かった」と、それに従い大人しく座る。 ペタ、ペタ·····と、痣がある箇所に湿布を貼っていく烏間は、床に膝を付きながらずっと無言で俺は静か過ぎて沈黙に耐えられなくなって話を振る事にした。 「ね、ねえ·····烏間、なんでここまでしてくれるの?」 俺達、赤の他人で知り合ってまだ一ヶ月位なのに······。 「········································。」 少しの沈黙が続いたかと思えば、 「分からない」と、湿布を貼りながら烏間が言う。 え?!分からないの? 予想外の言葉にツッコみたくなるが抑えた。 「なんでだろ·····蒼が傷付くのが嫌なのかな?」 烏間自身も分からないみたいで自問自答している。 「でも、最近お前の笑った顔が本物か偽物かは分かるようになったよ」と言いながら俺の目を見てきた。 「そ、そうなんだ、、」 相変わらず整い過ぎた顔。 それに、俺の笑った顔でどっちか分かるなんて······。 心が落ち着かなくなるような感覚になり、烏間から目を逸らす。 「···············はい、湿布終わり」 烏間の言葉で逸らしていた顔を正面に戻すと足やお腹には湿布がびっしりと貼られていた。 「ありがとう、湿布貼ってくれて·····」 俺は恥ずかしくて鼻と口をおさえる。 顔が熱いなぁ········なんだ、これ···、、、、 「ん。」 烏間は返事をして優しく細められた目で蒼を見ていた。が、残念ながらその時の蒼はその顔を見ていない。 湿布も貼り終わり俺は制服を着るが、 「··········湿布臭がヤバい」 鼻をくんくん·····と嗅ぐと、あの独特の臭いが俺の周りを漂っていて、苦い物を食べた様な顔になってしまう。 「た、確かに·····」 烏間も俺の身体に鼻を近付けながら困った様な表情を浮かべて話す。 「電車とか湿布臭恥ずかしすぎるよ」 「はははっ、そんなの気にしなくて良いよ」と、烏間は笑った。 ◇┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◇ ··········今日は色々あったなぁ。 校門を出て駅に向かいながら俺は今日の出来事を思い出す。 自分は烏間に甘えてばかりだ。 隣を歩く烏間はというと読んでる小説の話を楽しそうにしている。 本当に、本当にありがとう····烏間。 お礼や謝罪ばかりするのもな···と、思い心の中で感謝する。 「····················。」 すると突然、烏間が俺の袖を引張ってビルの壁の端に連れて行く。 え?!えっ?? どっ、どうしたんだろ? 烏間を見上げると⎯⎯⎯⎯⎯⎯····· 「今後、辛い事が起きたら俺に一番に連絡しろ。直ぐに行くし、何でも話聞くから」 烏間の真面目な顔が俺の顔にグッと近付き、耳元で囁かれる。 「ッ、」 男の俺でも·····これはドキッとしてしまう。 あぁ···モテる男って罪だよな。 俺は困った顔をしつつも「うんっ、ありがとう」と笑って烏間へ伝えた。 今回の事もあの図書室での出来事もそうだけど、烏間は本当に優しい奴だ。 烏間に恋愛対象で好かれた女性は大切にしてもらえるな、と思う。 だって·····友達の俺にもこんなに良くしてくれるのだから。
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