【10話】テスト勉強と名前

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【10話】テスト勉強と名前

桜が完全に散って五月となった。 自分はあれ以降も平凡な毎日を送っている。 まぁ、あの人の事はよくある事なので烏間には伏せている状態だ。 屋上で烏間、翔太と三人で食べていた時、あのワードが出てくる。 そう、、、 『中間テスト』という壁が·············。 「なぁなぁ、今月末中間だろ?勉強してる?」と、翔太が尋ねてきた。 「テストなんて授業聞いてれば大体わかるだろ」 烏間が呆れたように答えるが、それに対し翔太は「相変わらずスゲえなぁ〜w」と笑いながら言う。 理由は入試で学年一位だったのは有名な話だからだ。 「蒼は?」 「うーん、勉強してるけど英語が苦手で·····」と、卵サンドを食べながら話す。 中学の頃からどうしても単語を覚えるのが苦だ·····。 長文なんて古代文字にしか見えない。 リスニングは嫌いではないんだけど、、、、 すると、翔太の梔子色の目がキラキラと光り、 「蒼は英語が苦手なのか?俺、英語なら教えられるからお願いッ!化学教えて!!」と両手を合わせてお願いされる。 「えっ?」 俺は驚き、烏間もその発言には目を見開く。 うーん、まあ·····家にいるよりは翔太と勉強した方が苦しくないしなんか楽しそう。 俺はその案に乗る事に決めて「良いね!それ、やろう」と、頷く。 「よっしゃぁ〜っ!」 翔太は喜び、そこからテスト勉強を何処でやるかという話になった。 「何処で勉強する?図書室?」と翔太に聞く。 他の生徒が放課後図書室で勉強したり、本を読んだりしてるのを委員で見ていたので俺は図書室か何処かのファミレスでやると思っていた。 「いや、俺の家どーかなって。こっから近いし」 翔太が食後にホッキーを食べながら言う。 「翔太の家?いいね!」 「ついでに泊まってく?」 「え?!いいの?」 まさかの発言に驚いたが「おう!母さん絶対喜ぶ」と翔太は満面の笑みで言うので「なら、泊まろうかな」と、俺は翔太の家に泊まる事にした。 「じゃあ、決まりだ」 「ま、ままま·····まて!お、俺も参加するッ!!!!」 先程まで参加するような素振りが無かったのに『泊まり』という話が出た途端、烏間は慌てて話題に参加し、そんな烏間を見て翔太は大笑いしていた。 結局、この三人で中間テスト期間の間は毎週金曜日から日曜日まで学校から家が近い翔太の家に泊まって勉強会が行われる事が決まる。 ◇┈┈┈┈┈┈┈┈┈◇ その週の金曜日。 最後の授業が終わりクラスメイトは部活に行ったり自宅に帰る。 「じゃ、俺部活行ってくっからまた後でなっ!」と、翔太はリュックを背負って教室を出て行く。 バレー部に所属している翔太は平日は全て部活漬け。 通常は土曜日・日曜日も試合等あるが、テスト月間の今月は土曜日・日曜日は部活休みらしい。 因みに俺と烏間は部活に入っていない。 俺の場合は図書室の本が読みたいからっていう単純な理由なんだけど、烏間は色んな部活から声を掛けられているが何故か全て断っていた。 「蒼、行こう」と烏間が言い「うん」と、俺は頷いて二人で図書室へ向かう。 翔太を待っている間、二人で図書室で勉強するのが今の日課だ。 図書室は当番の図書委員以外にも本を読みに来た生徒やテスト勉強をする人が結構いた。 あの·····入学式後のような誰も居ない、というのは滅多に無いレアなケースだったみたい。 「何処に座る?」 烏間に聞くと「何処でも良いよ」と言うので適当に決めて席に座った。このやり取りもいつもの事だ。 「·························。」 本当は小説を黙々と読みたい···けど中間が近いから今は小説も我慢、我慢。。。 此処でのテスト勉強のやり方は一回、俺なりに問題を解いて答え合わせは烏間がやってくれる。その中で違った所を烏間が解説しつつ新しく似た問題を作成して俺に出す·····という、とても有難い待遇だ。 「蒼〜···またココが違ってる」 「あ、あれ??あ、本当だ、」 「この公式が絡む問題が苦手みたいだね、ココはちょっと応用で捻ってあるから一つずつ解いていかないと」 「うん、わかった」 俺は烏間に言われた事をメモする。その方が後で見直した時、思い出しやすいからだ。 家より凄くはかどる。 けど········、、、 「烏間はさ、俺や翔太に時間割いて自分のテスト勉強しなくて大丈夫なの?」と、心配だった事を本人に尋ねるが「大丈夫かな、勉強しなくても中学では十位内に基本いたし、これは俺がやりたくてやってる事だから」と、こちらの心配をあっさり否定。 しかもテスト勉強をせずに十位以内に入っていると言われた。 こんにゃろ············。 俺は悔しくて俄然やる気がでる。 「·············································。」 黙々と勉強をしてる時、何故か烏間がシャーペンを持つ俺の手に自身の手を重ねてきた。 俺は不思議に思い「なに?」と小声で尋ねる。 「ちょっと、意地悪したくなって」 「は?」 烏間を見ると意地悪そうな笑みを浮かべていた。 なぜ意地悪?しかも何故今??? 理解出来ない俺は「手、退けて」と困りながら言う。 すると、、、 「··········俺の事はずっと『烏間』呼びなんだね」 そう話す烏間は意地悪な笑みを浮かべていた筈なのに、拗ねている様に見える。 「···································は?」 予想外の発言に俺は心の声が口から出てしまった。 どうやら、同じクラスメイトを最近下の名前で呼ぶようになったのに、未だに自分は苗字呼びなのが気になっていたらしい。 「·························。」 でも、おかしい········。 この前他のメンバーが烏間を下の名前で呼んで良いか聞いた時は嫌がっていた。 俺は不思議に思いつつ「烏間も下の名前で呼ばれたいの?」と、烏間の重ねられていた手を退かしながら聞く。 すると「うん·····」と、しょんぼりしながら烏間は言うが、その姿が先程の意地悪そうな笑みが嘘の様に可愛く目に映る。 くっ、、、可愛いッッッ!!! ズキューンッッ!と、自身の心臓に矢が刺さった気がした。 イケメンの可愛い姿は老若男女、誰にでも通用する武器だからズルいっ! さて、日頃なかなか見えないその姿をしっかり目に焼き付けた俺は、早速名前で呼んでみようとする。 しかし·····何故だろ? こっちが恥ずかしい気持ちになって困った。 他のクラスメイトではそんな事無かったのに何故だろ····慣れないから? 「·························。」 疑問に思っていると、 「ま、まさか···だと思うけど···俺の下の名前··········分からない?」と、烏間が凄く悲しそうに聞いてくる。 かなりの検討違いだ! 俺の事を何だと思ってるんだっ! 「わっ、わかるよ!当たり前だろっ!」 俺はムッとしながら誰のせいだと···と思いつつ、自身を落ち着かせて「し、滋·····」と烏間の下の名前を呼ぶ。 よし、言えた! やっぱり他の人の時とは違って少し恥ずかしかったけど烏間の名前は呼べたしオッケーだな。 勉強に戻ろう·····と、烏間からノートへ視線を戻す。 「···············もう一回」 小さな声が聞こえた。 隣の烏間を見ると何故か両手で顔を覆い天井を見ている。 え?!な、なに? どーいう状況??? 俺はその様子に驚き「か、烏間?」と、現状が把握出来ないので取り敢えず声を掛けた。 「もう一回」 「え?」 「下の名前もう一回呼んでよ」 何なんだ·····? 溜め息をつきつつも「滋」と呼ぶ。 「もう一回」 「シ、ゲ、ル」 「もう一回!」 「滋!」 執拗いから次同じ事を言ってきたらスルーしよう。 そう決めていた時⎯⎯⎯⎯⎯⎯····· 「うん♪なに?」 烏間は凄く嬉しそうに灰色の目を細めて、 頭を傾けながら此方に応じる。 「ふぁッ?!?!」 や、やめてくれッ!!!!! 烏間の背後で沢山の花が舞ったように見えてしまい、俺は思わず直視し固まった。。。 近くに居た生徒達の顔は真っ赤に染まっている。 ど·····どんな恐ろしいフェロモンを出してんの?! 女の子なら確実に卒倒する。 「蒼?」 烏間が心配そうに俺の顔を覗き込み、名前を呼ばれた事で直視して固まっていたのが解けた。 「な、、なんでもないっ!」 「そう?」 「そうだよ、勉強に戻るからっ」 俺は自身のノートに視線を戻す。 何とも言えない危険があり、烏間を下の名で呼ぶというのは保留にしようと決めた。 「·························。」 ノートに黙々と書いていると「蒼」と呼ばれ、 「·····なに?」と、俺は反応する。 「これからは俺も下の名前で呼んでよ」 「却下」 「え?!なんで?」 呼ばれると思っていたのか烏間はかなり驚いた表情を浮かべていた。 「·····周りの人達に迷惑かけるから」 「??、周りの人?」 「とっ、とにかく当分はダメ」 「えぇー·····」 俺の言葉にしばらくの間烏間は拗ねていたが、 「あ!じゃあ、二人の時は下の名前で呼んでよ。それなら良い?」と耳元で話してくる。 いつも思うけど、烏間の距離感ってかなりバグってて近い気が··············。 「····················。」 余程下の名前呼んで欲しいんだなぁ、、、 「俺以外に呼んでもらうのは?」 「それは嫌。俺は蒼に呼んで欲しい」 やれやれと思い「わかった」と、伝えると烏間は凄く嬉しそうな顔を向けてきて「やった」と言う。 「そんな喜ぶ事?」 「喜ぶ事だよ♪」 「ふーん」 なんだろ·····この、大型犬を手懐けている感じは···············。 その後は烏間の機嫌は直り翔太が来るまで勉強は続いた。
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