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「どう? 嫌じゃない?」 「大、丈夫」  いちいち確かめなくてもいいのに、それだけ気を遣ってくれているのだろうか。あるいは単純に言わせたいだけかもしれない。 「先生痩せすぎじゃない? ここ、ほぼ骨じゃん」 「ぅあ、やめ、なぞるな、ぁ」  指先が浮いた骨をつつとなぞる。体の内側に触られているかのような錯覚。なのに快感めいたものを拾ってしまうだなんて。 「……ねえ、どこまでしていいの」  及川の動きがぴたりと止まる。いつの間にか向こうのほうも息が荒い。のしかかられている体勢のために、彼の下半身の変化には気づいていた。清白の膝のあたりに、先程から質量のあるものが当たっていた。 「駄目って言うまで止まらないよ、俺」 「……駄目って言うまで止めなくていい」  口を押さえていた手を外して、ズボン越しに、そっと及川のそこに触れた。覆いかぶさっている体が猫のようにビクンと跳ねた。 「ちょ、ちょちょちょ、せんせ!」 「俺だって、触りたい」  手のひら全体を、下から支えるようにあてがった。思っていたより大きくて硬い。ずっと「生徒」で「子ども」だと思っていた及川の、「男」の部分。手のひらの中で育て上げるように、やわやわと握り込んだ。 「っ、あ、もう、俺も……っ」  顔を真っ赤にして喉を震わせているくせに、それでもマウントを取ろうと、のしりと体重をかけてくる様がいじらしい。だがそれを微笑ましく笑っている余裕はなかった。脚をさすっていた及川の手が、下着の奥まで潜り込んで清白のそこを握りこんだ。 「あっ」  声が上擦る。そんな、そんなところ。今まで誰にも触れられたことがない。自分でだって本当に我慢ならないときに控えめに触れたくらいだったのに。  生々しい接触に怯えて竦み上がる四肢とは裏腹に、そこだけ別の意思を持っているかのように、熱い手のひらにしっかりと握りこまれ、上下に擦られ、簡単に形を変える。 「大丈夫? 気持ち悪くない?」 「聞かな、くていい……及川なら、何してもいい、からっ」 「何それもう。嬉しすぎるやつじゃん」  及川の親指が清白の先端を強く押す。ひゅ、と呼吸が唸って喉も背中も思い切り反らせてしまう。排尿感にも似た感覚は正直少し怖い。自分の体の、それも本来ならば人前に露出することのない部分を手のひらで触られているという恐怖。自分の意思ではない要因で性感を高められていく恐怖。情けない声を上げそうになる。空いた片手で及川の背中に縋って耐えた。及川に求められたとき、今度こそ逃げないと決めていたから。 「はァ、やば、先生のに触ってるし、先生が俺のを触ってる……」  くったりと細められて弓を描いた及川の目のカーブが、笑ったときのそれによく似ている。ぎこちなく擦っているだけだが、及川のそれはズボンの前を割る勢いで張り詰めていた。気持ちいいと、思ってくれているのだ。そのことを嬉しいと思う気持ちが、恐怖をほんの僅かだけ慰める。 「苦しくないか?」 「ん……?」 「こ、これ」  ぱんぱんに膨れ上がったそこを指先でつついて示せば、及川が眉間に皺を寄せて、う、と呻く。 「かっこ悪くて申し訳ないんだけどさ……正直、興奮しすぎてて痛い」  思わず喉をゴクリと鳴らしてしまう。ずっと「生徒」として可愛がってきた及川の雄としての本能を見てしまった背徳感と、その欲情の対象が自分であるということへの昂揚、そしてほんの少しの、優越感。  理性的な思考が巡らない。いくら及川のことを特別に思っていても、まだ彼に手のひらで触られると時々鳥肌が立つ。キスにしたって、いつまでも続いてほしい心と早く終わってほしい体の乖離にいつも葛藤している。まだ、恋人らしいスキンシップは清白にとって若干の苦痛を伴っている。  だから、そんなことはできるはずがないのに。頭では分かっていても、清白の口は思考と全くかけ離れた言葉を放っていた。 「なら……早く、入れろよ」 「えっ?」  及川がまだ幼さの残る目をきょとんと丸くして顔を上げる。言葉として何を言われたかは分かっているが、理解が追い付いていない。そんな顔だ。清白は先程から熱くてたまらない顔をくしゃくしゃに歪ませてもう一度同じ旨の言葉を放った。 「なら、早く入れればいいだろ」 「入れ……えっ? いいの?」 「その覚悟がなきゃ、ここまでしてない」  及川のズボンのウエストを掴んだ指先が震えてしまった。情けない。唇を強く噛んで、ゆっくりゆっくり引き下ろす。十秒以上もかけて、気の抜けるヒマワリ柄の下着をずり下げれば、待っていたと言わんばかりに猛々しい雄が弾け出た。  先端が少し湿っているのを見て、首の後ろが勝手に怖じ気づく。大丈夫、触れられるのも耐えられたのだ。自分から触れるほうが余程抵抗は薄い。両手で包み込むように、きゅ、と握った。 「大丈夫だから」 「っでも……」 「大丈夫だから」  眼鏡越しに強く見上げる。及川は口を変な形に曲げ、上を向き、下を向き、うう、と唸って、最後は清白の視線に押し負けた。 「無理だったら途中で言ってね」 「うん」 「じゃあ、布団いこ……」  シャツ越しに背を支えられて助け起こされ、ふわふわとした足取りで寝室へ向かう。抱かれるために自分の足で歩いているのだと思えば、自分がひどく滑稽なようにも思えたし、それがいっそう劣情を昂らせるようにも思えた。
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