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聞こえて来たのは噂とは少し違っていた。
「くすん……くすん……」
「女の子?」
私が耳にしたのは、女の子が泣いている声だった。
噂だと啜り泣く声がする。と、だけあったが、実際には女の子の可愛らしい声音が、涙を濡らして泣いていたのだ。
しかしここで一つ疑問が生まれる。
ここは秘蔵書庫。外からは厳重に鍵を掛けられ、絶対に誰も入って来れない・・・はずだ。
だけど確かに私には女の子の泣く声がした。
これは紛れもない事実で、私は気付けば叫んでいた。
「誰かいるの!?」
しかし反応はない。
もしも小ちゃな女の子だったら、何かしらアクションがあるはずなのに、物音一つしない。
私は不思議に思うのと同時に、一つ仮説的な面白おかしい要素が思い浮かんでいました。
「もしかして、本の声?」
「えっ!?」
すると、さっきまで聞こえていたはずの泣き声が驚きを讃える声に変わります。
私はその声のした方向を忘れることはなく、本棚の中から、気になる本を手に取りました。
「エイワスの魔導書?」
そこにあったのはエイワスの魔導書と書かれた背表紙を持つ、色褪せた赤い本でした。
私が手に取ったのは、もう一つ理由がありました。
私はこんな魔導書を知りません。むしろ何故私と同じ名前が付けられているのか、そんな有名な魔法使いがいたのかどうかすら、怪しい範囲で、私は少なくとも知りません。
「この本が話しかけて来たのかな?」
私は表紙を撫でてみました。
当然返事はありません。
不気味に思うこともなく、私は今度こそ本を開いてみることにしました。するとーー
「うわぁ!」
本が宙に浮かんだ。
かと思えば、勢いよくページが開かれていき、ちょうど真ん中で私の手の中に落ちて来た。
「おっと!一体、なにって!」
そこには白紙のページがあるだけだった。
いや、白紙だったページがあるだけだった。
写し出されていたのは、今しがた書いたとしか思えないような達筆な字面。
そこにはこう書いてあった。
“見つけた”
私は怖くなった。
だけど怖さなんてほんの一割。本当は楽しくて仕方なかった。
こんな面白いサプライズをくれる本、私は初めて出会った。やっぱりここに来てよかった。ここじゃなきゃ駄目だったんだ。
身体の内側からとめどなく溢れ出る、この感情は興奮に違いない。私は明らかに興奮していた。
「見つけた。うん、いいね。私も貴女を見つけたよ!」
“魔導書は好き?」
「うん。好き。大好き!私はいつか、自分で魔導書を書いて、世界一の魔導書士になるんだ!」
“いい夢。応援する。私もその夢、手伝ってもいい?”
そんな提案をされてしまった。
魔導書の方からそんな夢のような提案をされちゃったら、断るわけがない。
私は大きく頷いて、笑顔だった。
「これからよろしくね、エイワスの魔導書!」
にっこり笑顔で、対峙した魔導書に笑顔を飛ばす。
すると新しいページがサラッと開かれ、こう記されていた。
“こちらこそよろしくね。リーン・エイワス”
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