20人が本棚に入れています
本棚に追加
《ナポレオン VERSION》
ボクの名前は龍崎 皇帝。
自己紹介するのがイヤになるほど変わった名前だ。
いわゆるキラキラネームという類いの名前と言えるだろう。
しかもご丁寧に『皇帝』と書いて『ナポレオン』と読むんだ。とてもではないが尋常とは言えない。
もちろんこのキラキラネームで困っている。自己紹介する際、恥ずかしくて仕方ない。
奇妙奇天烈な名前を付けられた子供の身にもなってほしい。
当然のことだがボクが自分で命名したワケじゃない。
ナポレオンマニアのお祖父様の『鶴のひと声』だ。
我が家ではお祖父様が言うことは絶対だからね。
そう言うわけなので恥ずかしいから気軽に『レオン』と呼んでほしい。その方がまだマシだろう。
今夜もとびっきりの殺人事件がボクを招いて謎解きをしろと急かしてくる。
この世に蠢くすべての謎はこのボク、ナポレオンに解かれたがっているからね。
『名探偵ナポレオンの辞書に不可能と解けない謎は存在しない!』
けれどもボクは特異体質のため昼間は外の世界に出ることができない。
先天的にメラニン色素が作れないため、真夏の強い陽差しに当たるとヤケドしたように爛れてしまうからだ。
おかげで日中は吸血鬼ドラキュラのように陽射しの当たらない地下に閉じこもっていなくてはならない。
さらに新型感染症も心配なので、ここ数年は地下シェルターへ閉じこもり外出したことさえない。最後に外へ出掛けたのは小学校へ入学した時だから六年ほど前だ。その時も防護服を着て登校したので、同級生たちからは格好の笑いものにされてしまった。すぐに早退して以来、学校へは行っていない。
外界との連絡は全てリモートで済ませている。食事も基本的にデリバリーだ。
そういう訳でリアルな友達も皆無と言って良い。
そこで今回、選んだパートナーがニノマエはじめと言うアイドルヲタクの大学生だ。
通称、ニノ。もちろん国民的アイドルとは雲泥の差だ。
ニノは彼女もいないので取り敢えずヒマな時間はゲームをするくらいだ。
自由になる時間ならたっぷりあるだろう。
ある深夜、そのパートナーのニノマエの隣人で美人キャバ嬢、新堂レイラが殺害された。
ご丁寧な事にレイラは『ピースサイン』と言う『ダイイングメッセージ』を残して。
当たり前のことだが殺されたレイラが自撮りしてインスタグラムにアップしたワケではない。
すぐに容疑者はリストアップされた。
隣人の『ニノマエ はじめ』だ。
ニノマエは純情で小心者な草食系男子だ。
優しく真面目で正直な事くらいしか取り柄がない男子で間違っても人を殺めたりできない。
なのに隣人と言うことで疑惑の渦中へ突き落とされた。
『ピースサイン』が『ニノマエ』の『二』を現していると言うことだ。
バカらしくなってくるほど安易な発想で微笑ましい。
しかし無責任に笑ってばかりもいられない。
なにしろ厄介な事にニノマエは、その美人キャバ嬢から大金の入ったカバンを預かっていたからだ。
その額は五千万円あまり。
かなりの高額と言えるだろう。
いや五千万円と言えば殺害の動機としては充分だ。預かったと言っても口約束なので証拠にはならない。
ラインで『ベランダから来てほしい』と指示され、行った部屋にはレイラの遺体が転がっていたと証言した。
『ピースサイン』をして微笑んでいるように亡くなっていたらしい。
しかも部屋にはニノマエの指紋がベッタリと残されてあり、死亡推定時刻直前に彼女の部屋にいた事は確認されている。
さらに部屋に落ちていたレイラの剥がれた付け爪の皮膚片からニノマエのDNAが検出され万事休すだ。
当のニノは殺したのは自分ではないと主張するが警察だって、そんな証言を信じやしない。
たいていの真犯人は『自分は殺ってない』と言うからね。
独身で同居人もなく更にベランダから自由に出入りできるのでアリバイはない。
八方塞がりの状況と言えるだろう。
まァ、ボクはパートナーのニノを信じるがネットユーザーは、どうやらカレの犯行だと思っているようだ。
警察も世間もカレの仕業に違いないと推理している。
ニノマエにとっては四面楚歌の状態だ。
これは是非とも真相を解き明かさないと。
大事な相棒のニノマエを冤罪で殺人犯にするワケにはいかないだろう。
このナポレオンの辞書には不可能と解けない謎は存在してないからね。
なかなか興味深いミステリーと言えるだろう。
さァ、そろそろニノ。
暇つぶしにボクとドキドキするようなミステリーツアーへ旅立とうか。
極上の文庫本を片手に。
真っ赤なロードスターに乗って。
☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚
最初のコメントを投稿しよう!