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《ニノマエ VERSION》
いつだって『運命の輪』は何の予告もなく廻り始めるモノだ。
平凡で退屈な日々を過ごしていたのに立て続けに信じられないことが起こった。
昨日まで、ごく普通の大学生だったボクが隣人の美人キャバ嬢を殺害した容疑者として指名手配されるとは思いもしなかった。
☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚
なにしろボクの名前は変わっている。
『ニノマエ はじめ』
なんだ。『全然、変わってないじゃん』と思っただろう。
確かに読んでみると、さほど珍名ではないかもしれない。
だが漢字で現わすと、『一 一』と書く。
苗字が『一』で、名前も『一』だ。
『一』と書いてニノマエと読む。
二の前に一があるから『ニノマエ』なんだろう。一応、エスプリが効いている苗字と言えるかもしれない。
そして名前も『一』と書いて『はじめ』だ。テスト用紙の名前の欄に『一 一』と書くとふざけているのかと先生からクレームが付きそうだ。
知らない人に説明するのがややっこしい。普通の名前の方がずっと楽で良いだろう。
そういう訳で出来れば気軽に『ニノ』と呼んでほしい。
国民的アイドルみたいに。その方が覚えやすいだろう。
昨夜は隣りに美人キャバ嬢が越して来たので手伝って上げた。
隣室は事故物件なので、ずっと空き室だったが、ようやく入居者が来てホッとした。
しかも引っ越してきたのはとびっきりの美女だ。
スタイル抜群でワガママボディが魅力の現役女子大学生らしい。巨乳というヤツだ。
艶かしくダイナマイトボディで迫られたら堪らない。
厨二病真っ只中のボクは呆気なく彼女の魅惑のボディにノックアウトされてしまった。
こんな巨乳美女が隣りに越してくるなんて嬉しくて仕方がない。
隣人の女子大学生の名前は新堂レイラ。
まるで、ひと昔前のセクシークイーンの芸名のような名前だ。
レイラは二十一歳の女子大学生で最近までキャバ嬢をしていたらしい。
もちろん彼女ならナンバーワンだろう。
あまりボクと年齢は変わらないが、くぐり抜けてきた修羅場は違うようだ。
本当か、どうか定かではないが、政財界の黒幕の愛人だと言う噂だ。
すっぴんでも目を見張るほどの美少女だ。しかもグラビアクイーン顔負けのワガママボディをしている。
はち切れそうなバストが厨二病男子のハートを鷲掴みだ。
ただでさえ美女に免疫のないボクには刺激が強すぎる。
さっそくラインを交換してもらった。
さすがナンバーワン、キャバ嬢だ。
男性の懐ろに入るのが上手い。
ボクのようなシャイで人見知りな大学生でも、あっという間に意気投合し仲良くなった。
はじめて出来た美女の友人なので嬉しくて堪らない。
昂奮して昨夜はなかなか寝つけなかった。
だがベッドへ寝転がりネットサーフィンをしているウチに、いつの間にか寝落ちしていたようだ。
不意に着信音がした。
びっくりして目を覚ました。
「ンうゥ……」そうか。
すでにカーテンの向こうは明るく気づくと朝になっている。
ようやく寝落ちしたことに気がついた。
また着信音がした。
まさかレイラではあるまい。
しかし慌てて通話ボタンをタップした。
「ハイ……、も、もしもし?」
緊張で、かすかに声が上ずった。
『やァ、ニノ。悪かったな。美人キャバ嬢じゃなくッてェ……』
いきなり聞いたことのない少年が馴れなれしく話しかけてきた。多少、相手のボクのことをバカにした口調だ。
「え? ああァン、どなたでしょうか」
何なんだよ。こんなに朝早くから。
せっかく気持ちよく寝ていたのに。
こんな不躾な子供などまったく心当たりはない。
親戚や近所の子供にも思い当たるふしはない。だいたい子供の知り合いなどほとんどいない。
『フフゥン、ボクはナポレオンだよ』
「ええェ……? なんだッてェ」
あまりにも突拍子もない名前に驚いた。
ナポレオンなんて大げさな名前など漫画やアニメキャラ以外で聞いた試しがない。
『聞こえなかった。ナポレオンさ』
少年は念を押すように繰り返した。
「いやいや、ちゃんと聞こえたけど。マジなのか。ナポレオンッてェ……?」
だいたい、そんな変わった名前の少年など知るはずはない。
イタズラ電話だろうか。
まったく朝っぱらから厚かましくて図々しい少年だ。
『そうだよ。ちょっと目立ちすぎるから。良かったらカジュアルに『レオン』ッて呼んでくれよ』
「おいおい、レオンか伊勢佐木町マリオンだか知らないけど、ボクは見ず知らずの少年の話し相手をするほど暇じゃないんだ」
朝っぱらからいきなり電話で起こしやがって。
何なんだ。もっとヒマなやつを当たってくれ。
せっかく隣人の新堂レイラかと思って起きたのにガッカリだ。
『さァ、ニノ。謎解きの時間だ。とっとと着替えて事件現場へ向かってくれよ』
しかしナポレオンはボクのことなど、いっさいお構い無しに上から目線で急かせてくる。
「あのなァ……、断っておくけどボクはレオンの家臣でもパシリでもないんだ。なんで起きた途端、レオンの命令を聞かなきゃならないんだよ。ふざけるな!」
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