受け入れがたい案件

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「ちょっと待ってくださいよ! なんでそうなるんですか!?」 「佐藤さん、落ち着いてください」 急に立ち上がった俺を、医者が宥める。興奮する俺とは対照的に、その表情は冷淡だった。 「お気持ちは大変よく分かります。ですが、検査結果からも明らかですし、受け入れてもらう他ありません。もう一度詳しく病状を説明しますから、一旦お掛けください」 医者は、座るよう右手で俺を促した。抵抗してやろうかとも思ったが、医者の鋭い視線に負け、俺はそのまま力無く着席した。医者はそれを見届けてから、紙のカルテに目を通した。 「息切れと動悸が出現したのは、先週からで間違いないですか?」 俺は、ゆっくりと首を縦に振った。だが、やはり認めたくはない。溜まらず、俺は立ち上がった。 「あの、やっぱりなんかの間違いなんじゃ……」 「佐藤さん」 医者は諭すように、俺の名前を呼んだ。 「佐藤さんが知らないだけで、発症される方、結構多いんですよ。特に最近気温も高くなってきましたしね。だから別に、佐藤さんだけが特別なってしまった訳じゃない。あと治らない病気ではないので……受け入れてください」 俺は首を縦に振ろうとした。だが、やはり認めたくない。 「でも、俺……」 「佐藤さん」 今度は食い気味に、医者の言葉が被さってきた。 「病気の受け入れは、時間のかかるものです。焦る必要も全くないです。ゆっくりでいいですから……受け入れてください」 俺は、言い返そうとした。 「佐藤さん」 しかし、それより早く医者が喋る。 「とりあえず座りましょう」 医者の手が、再び俺の椅子を指す。俺は、渋々席に着いた。
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