これから

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 そして――私も自分のある気持ちを認めた。 「でもさ。教育実習で来たら、私はもう『生徒』ではないんだよね」  ぽつりと当たり前のことを呟くと、先生は不思議そうに首を傾げる。  そして目を伏せた私の顔を覗き込んだ。 「ん? ああ、そうだな。なんだ寂しいか? 心配しなくてもあと1年は……」 「全然! むしろ超嬉しい」 「う……いくら俺のこと嫌いでも、そんな嬉しそうに言われたら――」 「じゃあその時は私も恋愛対象にしといて」 「だからな……って、はあ?」  突然の爆弾発言に、さすがの先生も開いた口がふさがらない様子。  けれどもう隠す気にもなれなくて、いつもの軽いノリで話を続けた。 「だって前言ってたじゃん、生徒は恋愛対象外って」 「え? ああ、そうだけど……」 「だから私が大学生なら問題ないでしょ? あ、でもそれまでフリーでいてね。まあ私は卒業前でも全然いいんだけど、それは先生次第だしおいおいかな」 「いやいや、お前何冗談言って――え、まじで言ってる?」 「さあ、どうでしょう」 「は、何だそれ。心臓に悪いだろ……!」  明らかに困り果てた先生の顔に、思わず頬が緩んだ。  悩んで悩んで、私のことばかり考えればいいのに。 「あ、私塾行かなきゃ」 「あ、おい――」  戸惑う先生を交わし、軽く手を振って教室を出る。 「……なんだあいつ」  教室を出た後で、ぽつりと先生の声が聞こえた。  将来のことはまだ何も分からない。  だけどまた明日、学校に来ることだけは変わらない。  歳は取りたくないけれど、あの人に近づきたい気持ちもある。  勉強に恋に、私があと約1年学校に来る理由はまだあるようだから。  ひとつできた学校に来る楽しみに頬を緩ませ、軽い足取りで学校を後にした――。
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