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「いらっしゃいませ~」
甲高い店員の声がやけに耳に残る、日曜の午後。
大して飲みたくもないカフェラテを片手に窓際の席につくと、小さくため息をついた。
今日会う約束をしていた美咲から、『熱が出た』と連絡があったのは小一時間ほど前。
急な予定変更で迷ったけれど、父親がいる家にいるのも居心地が悪く、当てもないままに家を飛び出してきた。
「……甘」
頼んだカフェラテは想像していた以上に甘く、思わず独り言が漏れる。
手持ち無沙汰に外を眺めていると、ここにいるはずのない人物の声が聞こえてきた。
「あーすみません、砂糖もう3ついいですか?」
「は、はい」
先ほどまで声高らかに接客していた店員は、明らかに戸惑いを見せている。
その原因を作っているのは――
「……女鹿?」
どうして休日までこの男と顔を合わせなきゃいけないのだろうか。
特に許可などしていないのに、その人はごく自然に私の横に腰を下ろした。
「何でここ座るの」
「ああ、悪い。ついな。誰かと待ち合わせか?」
「……別に。美咲と会う予定だったけど、体調崩したって」
「へえ珍しいな。ってことはお前は暇人か」
そう言って嫌味のひとつもなく笑うのは、学校でしか会ったことがない先生だ。
ここがカフェだからなのか、それとも彼の服装がいつもと違うからなのか、まるで別人のように見えた。
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