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九
地主の家に残った二人が自分の話をしている事をつゆ知らず、エルモは村を出て近くの街まで歩いた。
「けっこう、賑わっているわ」
街の入り口から入るとなかは食べ物屋も多く立ち並んでいて、多くの人とすれちがった。
この街には王都から派遣された、簡易の冒険者ギルドがあるみたいで、すれ違う人達の中には冒険者の姿もあった。
(この街なら、働く場所がありそう?)
まだ、のんびりと過ごす事はできなさそうだけど、それは仕方がない。活気がある街の中を食べ物屋がいいと、やすみながら探して回り。
バイト募集をしているパン屋と大きな食堂、酒場みつけた。
(できれば、住み込みで働きたいから昼間はパン屋か食堂で働いて、夜は酒場かな?)
だけど、パン屋と食堂はお昼を過ぎには閉店していた。
目的の酒場は夕方前にお店が開き、中ではお酒を飲む人たちで賑わっている。
店の様子をエルモは外から覗くと――店の中には冒険者なのだろうか? 大柄な男たちが大声で楽しそうに、冒険の話をしながら酒を楽しむ姿が見えた。
この店の制服見た目はかわいいけど。
胸が強調されてるし……スカートの丈も短い。
「あの服、私にも着れるかしら?」
胸は多少なりあるから着られないこともない。
舞踏会のドレスだって、同じ様なデザインものもあったから抵抗なく着られるわ――それに前世、居酒屋でアルバイトしたこどあるし。
――もうちょっと、店の中が見えないかな?
「おい!」
「ひゃぁ……」
「若い女性がこんな所にいると、悪い男に連れて行かれるぞ!」
男性に声をかけられて振り向くと、黒いローブ姿のグルがいた。酒場に来たということはグルも、ここにお酒を飲みに来た。
いいところにきたわ。
グルに頼んで一緒に入れば、もう少し酒場の中の様子が見られる。と、思ったのだけど。
グルはエルモの腕を掴み、酒場からはどんどん離れて、街の外にまで出てしまう。
(あれれっ?)
「酒場にお酒を飲みに来たのではないのですか?」
「俺は酒場で酒は飲まない。気性の荒い冒険者もいる、こんな男達ばかりのところに女性が一人でいると危ない。とっとと家に帰るぞ」
「う、うん」
――もしかして、私を心配で迎えに来てくれたの?
「エルモはなに笑ってんだ?」
「べっ、別に」
グルに手を握られたままエルモは村へと帰った。
村に入っても繋がれた手は離されなくて、とうとう家までグルと手を繋いだ。玄関の扉が乱暴に閉められ、その手は一段と強く握られて。
「エルモ、あんな場所で働く気だったのか?」
開口一番に怒鳴り声を上げたグルに、
そうだと言ったら、また怒鳴られた。
「ダメだ! あんな酒場で働くぐらいなら仮住まいじゃなく。もう、ここに住め! 働きたかったら昼間だけ働いて……あとは俺の手伝いをすればいい!」
怒ったグルに「ここに住め」と俺の手伝いしろと言われた。
「住んでも、いいの?」
「いい、この言葉に二言は無い! 帰る所がないのだろ? 何かあったら、この村の人かばっちゃんを頼ればいい」
――ほんとうに?
グルの優しさにポロッと涙が落ちた。
この涙はエルモにとって久しぶりの涙だった。
寂しくても、泣かないように我慢していた――新しい国は何処か楽しみだけど、何処か不安もあり緊張もしていた。
「おい、エルモ泣くことかよ!」
「もう、グルさんのせいだよ。嬉しいの……ありがとう、グルさん。本当にありがとうございます」
「……わかったから、泣くなよ」
こうしてエルモはしばらくの間、グルの家に居候させてもらうことになった。
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