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十一
エルモはベッドを抜け出して、かんたんに身支度を終え。
朝食を作りにキッチンに立つとキッチンの上にカゴが置いてあり。中には卵に新しいパンと野菜、コーヒー豆が入っていた。
まだ、ベッドにいるグルに声をかける。
「この食材、使っていいの?」
「ああ、好きなだけ使っていいよ」
「それじゃあ、目玉焼きとパンとサラダとスープでいい?」
「いいけど……エルモが作ってくれるのか? それはありがたい楽しみに待つよ」
ベッドを抜け出し身支度を整えて、食卓のテーブルに座るグルを見て、エルモはキッチンに立ったはいいが困った。
ここのキッチンは屋敷で使用していた物とは違い、薪の入れるところがないのだ。
「グルさん、このキッチンのコンロはどう使うの?」
「ああ、言うのを忘れていた。エルモは魔力ありか?」
「え、魔力?」
確か……学園の入学の時に魔力測定機で計ったときには、魔力ありの判定だったはずだ。
「人並みに魔力があると思います」
「だったら、コンロの上を触ってみな」
――コンロの上?
グルに言われた通りコンロに触れると、赤い魔法陣が光り、ポッとコンロに火がついた。
「うわぁ、嘘、火がついたわ? いま、私が魔法を使ったの?」
はじめての魔法に喜ぶエルモに、
「……喜んでいるところ悪いが、ちょっと違うんだ」
と、グルは首を振った。
「違う?」
「うん。俺が用事でいないときエルモが一人で困るだろうから。すこしの魔力で反応するよう魔法陣を変更しておいた」
ほかにも流し台、お風呂とトイレ、ランプなどにも、グルはエルモの為にいろいろ細工をしてくれたらしい。
「ありがとう、助かります」
「たやすいことだよ」
「フライパンは上の棚ですか?」
「そうだけど、エルモは届くのか?」
グルにそう聞かれて。背伸びをして棚の扉は開けられたけど、フライパンに手を伸ばすも取れない。
「うーん届かない……無理そうです」
「そうか……」
グルはテーブルから立ち上がり、エルモの隣に立つとフライパンを取ってくれる。
ほかにはときかれて、スープようの鍋も取ってもらった。
「これは不便だ、エルモ用の踏み台がいるな」
「はい、あると助かります」
「それと調味料」
「ありがとう」
木箱に入った調味料も棚から出してくれた。
(中身はオリーブオイルとお酢、塩胡椒、コンソメか……)
パンをフライパンで焼いて、オリーブオイルと塩で簡単オリーブトースト。
つぎに目玉焼きにレタスとキュウリのシンプルサラダを作って。
あとはサラダにかけるドレッシングを、オリーブオイルと、お酢と塩胡椒を入れて混ぜて作り。
スープはコンソメと玉ねぎの簡単スープでいいわね。
朝食のメニューを決めて、料理を作り始めた。
フライパンでパンを焼きオリーブオイルを塗り、塩をひとつまみふり、乾燥バジルを散らした。
サラダにかけるドレッシングを作り、玉ねぎを薄切りにしてお鍋で色づくまで炒めて、水を加えて沸騰したらコンソメを加え塩胡椒で味を整えた。
出来上がった料理を皿に盛り付けて、
「グルさん、お待たせしました」
「おお、美味しそうだ、さあ、食べよう」
グルの前に座り、彼が食べる姿をじっと見つめた。
一口食べて、グルが微笑む。
「美味い! 誰かに作ってもらって一緒に食べるのって、いいなぁ。昨日のパンも美味かった」
「フフッ、一緒に食べる食事は格別ですものね」
私も普段の何倍もの美味しさを感じた。
食後のコーヒーは任せてと言ってくれたのでグルさんに任せた。
彼は慣れた手つきで豆をミルで擦り、お湯を注ぐ、淹れたてのコーヒーのいい香りが部屋中をみたす。
「はい、コーヒーと、これ」
コーヒーと紙袋をテーブルに置いた。
開けてみると甘い匂い香り。
「シュークリームだ、食べてもいいの?」
「ん、一緒に食べよう」
「いただきます。――んん、おいしい」
「そっか、よかった」
エルモはクリームたっぷりのシュークリームを、グルにご馳走になった。
朝食の後片付けを終えて、エルモはパン屋と定食屋の面接に行くと伝えると、グルは家の鍵を渡した。
「俺は昼前ぐらいに家を出るから。そうだ、何か困ることがあったらこれに話しかけて」
グルから、一枚の魔法陣が描かれたカードも貰った。
この、魔法陣を触りながら話すとグルに声が届くらしく。
遠慮なしに話しかけてと言われたので、エルモはすぐさま魔法陣に触り「はい」と返事をすると。
もう一枚のカードからエルモの声が聞こえた。
「おい、貴重な通話カードだ大切に使え」
「はい、では面接を受けに行って来ますね。グルさんもお気を付けて行ってらっしゃい」
「ああ、エルモ。変な奴には付いていくなよ」
「分かっています」
街まで歩きパン屋の開店前の扉を開けて「貼り紙を見ました」と言うと。
店の奥から仕事の手を止めて、おばさんとおじさんが出て来て面接をしてくれた。「毎日働きたい」と伝えると、おじさんとおばさんは見合って微笑み頷く。
「エルモちゃん、よろしくね」
「これからよろしく頼むよ」
「はい、よろしくお願いします」
働く日は週五日で、仕事はパンの補充とレジ打ち、仕込んだパンが売れたら仕事はおしまい。
「エルモちゃん、明日の朝六時から来てちょうだいね」
と、焼き立てのパンを貰った。
面接が終わり家に着くと、グルは薬草取りに出た後だった。
この、ふっくら焼き立てのパンが食べられないグルには悪いけど。今日と明日、明後日は薬草摘みでいないと言っていたから仕方がない。
キッチンにパンを置くと隅に踏み台が置いてあった。
グルが薬草を摘みに行く前に用意してくれたのだろう。
その踏み台に乗り夕食にサンドイッチを作り、コーヒーを淹れた。後片付けを終えてベッドに潜り寝る前に、窓から見える星空を眺めて、エルモはグルに貰った通話カードを触り話しかけた。
〔グルさん、おやすみなさい〕
〔ああ、おやすみエルモ〕
こんなに直ぐにグルから返事が返ってくるとは、エルモは思っていなかったから驚いてしまった。
そうだ、グルさんに今日のことを伝えようと……。
〔あのね、グルさん。明日から隣街のパン屋で働きます〕
〔バイト決まったのか、気をつけて行けよ〕
〔はい〕
と、その日の夜の通話は終わった。
「んん――っ」
ベッドでぐっすりと眠り、目を覚ますとグルが隣で寝ている。
――え、グルさん?
彼は二、三日は薬草摘みで居ないと言っていたのに、いつの間にか帰ってきて私を抱きしめて眠っていたのだ。
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