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十二
森の中で木に背を預けて、ひとり月を見ていた。
「もうすぐ満月か……」
明日か明後日にでも月は満ちて丸くなる。グルはエルモのことをどうするかと考えていた。この時、エルモに渡していた通話カードから、エルモの声が聞こえた。
エルモは寝る前の挨拶と、グルにパン屋で働くことを伝えた。
いつもなら一人でも平気な夜が、寂しく思えた。ほんの数時間はなれただけで、グルはエルモに会いたくなった。
(こんな気持ちは始めだ、みんなはこんな時どうする?)
押して押しまくるのか、そんなことをして嫌われてしまったら、グルは立ち上がることができなくなる。
いや……その前にグルのことを知ると、エルモは逃げて行くかもしれない。
ーー前にばっちゃんは、そうならないと言ったけど……俺はその言葉を信じたい。
「よし、帰ろう」
この森に兄はいないし。たまに悲しい瞳をするエルモを守り、抱きしめて眠りたい。
――エルモがくれる安らぎは心地よい。
――目覚めるとエルモが側にいる、この幸せを手放したくはない。
「兄貴もあの子に裏切られる前は、こんな気持ちだったのかな?」
❀
「おはようエルモ」
「おはようございます、グルさん」
パン屋にバイトに行くために、起こさない様にそっと起きたつもりが、物音でグルを起こしてしまった。もぞもぞとグルはベッドから出てきて、欠伸をしながらテーブルに着いた。
「フフ、今から朝食作るね」
「あぁ」
グルの返事を聞き、エルモは髪を上げてエプロンを付けキッチンに立ち。パンを薄く切りフライパンでカリカリに焼いて、塩胡椒をきかせた目玉焼きを乗せて、その上に熱でトロリと溶けたチーズを掛けた。
残りはサンドイッチにしてグルのお昼ご飯を作り、バイトに行く準備をしていた。
「エルモ、俺は今日一日、書斎の奥にいるからバイトから帰って来て、ここにいなかったら声をかけてくれ」
「はい、行ってきます」
「ああ、気を付けて行ってこい」
奥の書斎に部屋に入って行くグルを見届けて、エルモはパン屋のバイトに向かった。隣街のパン屋さんは朝から大反響。食パンに惣菜パンなどあらゆるパンが売れていく。
「エルモちゃんレジお願い」
「はーい!」
お昼時は特にサンドイッチと惣菜パンが売れていく、パン屋のおじさんとおばさんは奥でひっきりなしにパンに卵や野菜を挟み、お店のドアベルもひっきりなしに鳴った。
カランコロン
「いらっしゃいませ」
「おお、なんだ? カイとミサは新しいバイトを雇ったのか?」
「そうだよ!」
「はい。今日からここで、働かせていただきます」
「ふーん、お嬢ちゃんの歳は何歳だ?」
「歳ですか? 十八です」
「十八か……若いね、俺が後十歳若けりゃなぁ」
「ハハハッ、無理、無理、ゲンさんには無理だって!」
パン屋の常連さんは良い人ばかりで、この街のお菓子屋に、美味しいケーキ屋の情報を教えてくれた。初日はレジ打ちの間違えもなく、パンも売り切れて、今日のバイトは無事終わった。
「エルモちゃんおつかれさま。この焼きすぎ、見た目が悪くて、売り物にならなかったパンなんだけど食べる?」
「え、いいんですか? お昼にいただいたパンすごくおいしかったので、嬉しいです」
「あら、うれしいね。旦那と二人じゃ、食べきれないから持っていって」
そう言われて、おばちゃんから袋を受け取ると、なかには、たくさんのパンが入っていた。
「こんなにいいんですか? ありがとうございます。いただきます!」
エルモがパンを受け取り喜ぶ姿を見て、うんうんと、おじさんとおばさんは微笑んだ。
「お先に失礼します。おつかれさまでした」
「ああ、おつかれさま」
「エルモちゃんお疲れ様。明日もよろしくね」
「はーい!」
パン屋を後にして街の入り口に近付くと、見慣れた黒いローブが見えた。
――あ、グルさんだわ。
今日一日は書斎の奥にいるって言っていたのに"お迎え嬉しい"と、はやく彼のところに行きたくて、自然とエルモの歩くスピードが早くなる。さいごには我慢できず近くに行く前に、グルを呼んでしまった。
「グルさん!」
エルモの声に気が付き、こっちを向くグル。
「エルモ、終わった?」
「はい、こんなにたくさんのパンをもらいました」
貰った袋を開けて、パンを見せるとグルは微笑んだ。
「美味しそうだな、コーンスープでも作るかな?」
「コーンスープ? 飲みたいけど。でも、いま持ち合わせが無いです」
「はは、大丈夫だよ」
グルは村に帰り、八百屋に行くのかと思いきや。
「待っていて」と外にエルモを待たせて「ばっちゃん!」と地主さんの家に突撃した。しばらくなかで話をして出てくると、グルは隣にあるおばちゃんの畑に入って、トウモロコシ二つとカボチャを採ってきた。
「いいの?」
「ああ、いつもこうやって、ばっちゃんに野菜を貰ってくる」
平然として言うグルに唖然とした。
「そう驚くなって、ちゃんと手が空いた日には、ばっちゃんの畑の手伝いしてるから」
「そうなんですね」
今度、エルモもおばちゃんの畑を、お手伝いをしょうと思った。
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