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十三
日も暮れたグルの家――キッチンでエプロンを着けてたのしく料理する二人の姿と、コンロの上ではコトコトお鍋でコーンスープがこまれていた。
「「できた!」」
食卓の上にエルモがもらったパンとチキンソテー、ちぎりサラダ、できたてのコーンスープがならんだ。美味そうだと、グルとエルモは向かい合って、テーブルに座り「いただきます」と手を合わせた。
料理を一口たべて、ニンマリ。
「うまい!」
「おいしい」
二人で作り一緒にだべる、幸せの時間をすごした。
早朝。テーブルに並ぶ、焼き立てのパン、ハムエッグ、コーンスープ。グルは温められたコーンスープにパンを浸して、
「エルモは知ってるか? こうやって焼き立てのパンにコーンスープをつけて食べると、美味いんだ」
パクッと食べるところを、エルモに見せた。
「グルさんはちょいつけなのね。わたしはパンをコーンスープにぜんぶ浸しちゃうの」
「パンを全部か!」
「はい、パンにコーンスープが浸って美味しいの」
グルが昨日の夜に作ってくれた、コーンスープは濃厚でとても美味しかった。パンをコーンスープにつけて食べるグル、パンをコーンスープにぜんぶ浸すエルモ。
どちらの食べ方が美味しいと盛り上がった。
グルは朝食のあと部屋に入り、ローブを着て出てきた。
「エルモ、いまから薬草を取りに行ってくるよ」
グルは遠い所だと魔法転移で行って、近くの薬草畑だと歩いて行くと前に話しを聞いていた。街のギルドで依頼を受けたと行っていたので、どちらに行っても帰りは遅いだろう。
「じゃあ、帰りは夕方?」
「ああ、そうなるな。今日は迎えには行けないけど、帰ったら晩ご飯を楽しみにしているよ」
「任せてください、と言っても簡単な料理しか出来ませんけど」
「俺にはそれが有難いよ」
エルモはパン屋にバイトに向かい、グルは遠くの森へと薬草を摘みに魔法転移して行った。
今日も大勢の人で賑わったパン屋さん。
そのバイトの終わり、エルモは驚いていた。
「こんな高級なチョコパンを貰ってもいいのですか?」
パン屋のおじさんとおばさんにチョコがふんだんに練り込み、中にはたっぷりのチョコクリームが入ったお店の一番人のパンを貰った。
「いいよ、わたし達が作ったパンをあんなに美味しそうに食べてくれて、こっちは作り甲斐があるよ」
「それにあんたが来てから、作ったパンが美味いんだ」
「あら、あんたも思っていたの? わたしも思っていた」
――私が来て、パンがおいしくなった?
エルモは焦り。
「ち、違います! ここのパンはどのパンを食べても美味しいです。おじさんとおばさんが腕によりを掛けて作っているからです!」
と、パンの美味しさを力説した。
エルモの言葉に喜んだおじさんとおばさんは、笑顔で大量のパンをふくろに詰めてくれた。
パン屋のバイトからの帰り、エルモはごきげんだった。
「グルさん、このチョコパン好きだから喜ぶだろうなぁ」
彼の喜ぶ顔を思い浮かべ、村の入り口まで来ると。家の方角から必死な顔で走ってくる、グルの姿が見えた。
「グルさん!」
「………」
――あれ? 声を掛けても聞こえていないみたいで、もう一度呼んでみた。
「グルさん、グルさーん、どうしたの?」
「あ、エルモ」
今度は聞こえて足を止め、近寄ってくる。
「ハァ、ハァ……いま、エルモを迎えにいこうと思って…」
「私のお迎え? ありがとう、グルさん」
「いいや、エルモお帰り、バイトごくろうさま」
グルは息を切らしながらエルモの横に並び、両手にかかえた袋を見て驚く。
「今日は、たくさん貰ったな」
「そうなの、明日はお店が休みだからって見てよ。たくさんのチョコパンと、パンを貰ったの、食べ切れるかな?」
そのエルモの言葉に、グルは大きく頷き笑った。
「ハハハッ、食いしん坊が、ここに二人もいるから大丈夫だろう! エルモは……明日、バイト休み?」
「うん、お休み」
「じゃあ、明日一日は俺のお手伝いな」
「お手伝い?」
「採取にいっしょに行こう」
それだけ言うとグルはエルモが持つ袋から、大好物のチョコパンを出してかじった。となりから甘く香るチョコの香りに、エルモは我慢できなくなる。
「グルさんずるい! わたしも、わたしも食べたい」
「ククッ、わかったよ」
そう答えたグルは新しいチョコパンを袋から出すのではなく、かじったチョコパンを開けたエルモの口に入れたのだ。
(ちょっ、これって間接キス……)
「チョコパン、うまいな!」
「うっ、うん」
グルは気がつていないみたいで、エルモだけがどきどきしていた。
その夜、寝静まったエルモの隣で「あ、おれ……エルモと…」グルはさっきのことを思い出して、ひとり悶えたのをエルモはしらない。
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