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十四
今朝の朝食後。
「片付けが終わったら、街まで買い物にいこう」
エルモが朝食の後片付けをしていた。
そこに街まで出かけると奥の部屋から、いつもの黒いローブを着てグルが出てくる。
「いまから買い物? 森に薬草取りにいくんじゃないの?」
「採取は午後に行くよ」
「午後に、ですか?」
エルモは不思議そうに聞き返すと。
「エルモの服と……替えの下着とか、いるだろう? こまめに洗濯はしているみたいだけど……」
「え?」
(うそ! 気付かれないよう、こっそり洗って、見えない所に干しているのに?)
「私の洗濯物を見たの? グルさんのエッチ」
「はぁ、俺がエッチ? ……違う、エルモが下着を干している場所は、書庫の窓近くなんだ……書庫の空気を入れ替えようと窓を開けて、びっくりしたのは俺だ!」
「ええ、書庫の近く? そうだったの、ご、ごめんなさい」
「あやまらなくて、いいよ……じっくり見たし……その、女性物の下着ってフリルとか、リボンがひらひらして可愛いな。初めてエルモに会ったときに着ていた……あれもよかった」
(フリルとリボン付きは私のお気に入りの下着で、初めてのときはネグリジェ姿だわ)
「ちょっと、どれだけじっくり見てるの? 詳し過ぎるわ!」
「だから、しっかり見たと伝えただろう! ……エルモに貸した服はみていて可愛いけど、使い勝手が悪いよな?」
「そうだけど……」
グルにシャツとズボンを借りて、パジャマ代わりにしてる。でもズボンは大きくて腰を紐で縛らない履けなかった。
二人で街まで歩き、洋服屋で淡いブルーのワンピースをグルに買ってもらった。グルは次と言ってーー彼は気にしていないのか、女性物の下着を扱う店に入ろうとする。
(下着屋って夫婦とかろうじて恋人は入れるけど、ほかは断られたりするって聞いてわ)
「グルさん、結婚していない男性の方はダメです……」
慌てて中に入ろうとする、グルのローブを引っ張って止めた。
「結婚? そうなのか……ちぇっ、好みを買おうと思ってたのに」
グルの好み?
「本音が漏れていますよ……参考までに聞きますけど、何色が好みですか?」
「俺か……俺はブルーがいいなぁ」
待っていてくださいと言って、下着屋で、ブルーのリボンとフリル付きの上下を買った。
次にグルの買い物にいいのなかと聞くと「俺は今度でいいよ」と言うので。バイトのお給料がでたときに、何かプレゼントをしようと決めた。
「帰って、昼を食べたら採取に行こうか」
「はい」
草摘みに行くために一旦家に帰り。
残っている食パンを焼きバター塗り、厚焼き卵サンドとキュウリ、ハムとチーズのサンドイッチを作り、チョコパンも外をカリッと焼いた。
「できたよ、食べよう」
向き合ってテーブルに着き「いただきます」と、二人が手を伸ばしたのはチョコパンだった。笑って仲良くチョコパンを食べ、サンドイッチをかじり、グルが淹れてくれたコーヒーを飲む。
ーー幸せだわ。
「ンン、美味しい」
「そうだな……なあ、エルモ」
「ん、なぁに?」
「さっき買った服を着ているところがみたいな」
チラッ、チラッと照れた様に、グルはベッドの上の荷物を見た。
(グルさんは買ったワンピースを見たいのか……それとも)
「いいけど、採取から帰ってからね……後、下着は恥ずかしいから無理」
「……そうかわかった、ワンピースは約束な。後片付けを終えたら森に薬草摘みに行こう」
お昼の片付けを終えると、グルに森までは"転移魔法"で行くからと言われた。
家の外で"俺の腰に抱き着け"とグルに言われてしがみつくと「行くぞ」の言葉と、グルが何かつぶやくと足下で魔法陣が光り、一瞬でグルとエルモは森の開けた場所に着いた。
(あ、この森……)
エルモはこの森を知っていた、あの切り株が森への入り口。ーーこの森は乙女ゲームでヒロインと王子が子供の頃、怪我をした白い精霊獣を助けた精霊の森。
ゲームだと精霊の森の奥には、精霊と共に暮らす、獣人達の村があるはず。獣人の村に人間が入ってこられないよう森には魔法が掛かっていて。ゲームの画面上『上上右下左上』と、順番に森の中を進むと村に着く仕組み。
(獣人が好きで、よく森の奥に村を見に言ったなぁ……懐かしい)
「どうした?」
「ううん、何でもない。薬草はどれを採ればいい?」
そう聞くと、グルは近くに生い茂る草を採ると、エルモに見せた。
「これだ、今日はアルテミシアを採りに来た、ばっちゃんや村の人が乾燥させてフライパンで炒ってお茶にするんだ、村でも愛用されていて近頃は王都でも人気なんだよ」
と、グルが見せてくれたのは、エルモも知っているヨモギだった。
「わかった、これを採るのね」
二人で並んでヨモギを採取していた。グルが持ってきたカゴは、採取を初めてすぐ『ヨモギ』こちらで言うと『アルテミシア』でカゴいっぱいになる。
日も暮れてきたし、そろそろ帰ろうかとグルと話していた。そのとき精霊の森の中が騒ついた。
「ギャーォォォーン」
動物の鳴き声が森の中から聞こえる。
その声を聞き、グルは険しい顔をして森を見上げた。
「エルモは俺の後ろに隠れて動くな、ここに何か来る!」
「え、グルさん!」
エルモを守る様に前に出たグルは、構えて森の入り口を見ていた。ガサガサと枯れ葉を踏み、こちらに向けて走る足音が大きくなる。
「キャフーン」
「エルモ!」
「きゃっ!」
グルが見ていた森の入り口の方からでは無く。真横の草むらから、白く小さな何かが飛びでてきた。
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