十五

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十五

 エルモは真横から飛びでてきた、小さく白い塊を受け止めようとしたのだけど。ーーその塊は大きさの割にはずっしりと重く、受け止めたエルモの体は傾き、グルによって受け止められた。 「エルモ、大丈夫か?」 「は、はい」 「ギャオーン」  エルモの胸元で元気よく鳴いた小さな白い塊。そのシマシマ模様の耳と、お尻に揺れる長い尻尾があった。 「可愛い、子供のトラ?」 「ゲッ、あ、あに……き…………精霊の森に帰って戻っていてのかぁ! 俺はあに、き、を探してあちこち探し回ったんだぞ! ……それに、その傷はなんだ?」    (グルさんの言う通り、子トラちゃん怪我をしているわ) 「ニギャーッ」  グルは子トラを私の胸から引き剥がそうとしたが、子トラは離れるのは嫌がり、グルの掴んだ手をガブガブ甘噛みした。 「イテッ! いてて、クソッ! どれだけ、探したと思ってるんだ! みんなも心配してるんだぞ!」 「ギャー、ギャー」  子トラは鳴きエルモの胸から飛び降りて、グルの足元にじゃれつく。グルも嬉しそうに足元の子トラを捕まえて、回復魔法で怪我を治した。 (……二人の中に入れない)  その光景をポツンと一人眺めていた。 「回復よし、他に怪我はないか?」 「ギャオン」 「そうかよかった。心配だから黙って、どこにも行くなよ」 「ギャオン」 (グルさん、子トラちゃんに会えて嬉しそう。子トラちゃんも楽しそう……探していたと言っていたし、二人は昔からの友達なのかな?) 「お腹はすいていないか?」 「ギャーオン」    ーー言葉がわかるのか二人は普通に話もしていた。 「フフッ、グルさんと子トラちゃんは仲がいいね。少し……羨ましい」  子トラはグルからフワッと離れて胸に飛び付き、まん丸の目で下からエルモを覗き込んだ。さっきは重く感じた子トラだったけど、いまは羽のように軽くて、グルに支えられなくても抱っこできた。 「あら、あなたの瞳――私と同じ、サファイア色なのね」 「キューン」  覗き込むエルモに子トラは近寄り、グルグル喉を鳴らしてエルモの頬をスリスリすり寄せた。 「フフッ、もふもふ、ふわふわ」 「キュー」 「あっ、グレ! てめぇー、俺がエルモにやってないことを、先にするなぁ!」  子トラとエルモの頬すりを見たグルは声を上げて、子トラをガシッと両手で掴み引き離そうとした。しかし、子トラは離れるのを嫌がり鋭い爪を出して服にしがみ付いた。 「あ、グルさん待って、子トラちゃんの爪が服に引っかかって、ワンピースがやぶけちゃう!」    と叫んだと同時に、ワンピースの胸元がビリッと破けた。 「あ、お気に入りのワンピースだったのに……」 「ご、ごめん……グレ、その爪を引っ込めて離れろ!」 「ギャオーン」  子トラは謝るどころか楽しげに鳴き、グルに飛びかかるけどグルがひょいと避けて、近くのエルモに飛びつく。 「グレ、離れろ!」 「ギャオン」 「フフッ」  今度はエルモも混ざって、子トラとのじゃれあいを楽しみ。気付けば日も暮れていて、 夜空に満月に近い月と、星々が三人を照らしていた。  夜空を見上げて、エルモは歓喜の声をあげる。 「うわぁ、星がこんなにも夜空を照らしてるわ」 「星? エルモは初めて、この夜空を見たのか?」 「うん、グルさんの家からも星は見えるけど、こんなに輝く星々を見たのは初めて」  ふと、思いだす――昔、一度だけ夜空を見たいと庭にでて、星をながめているところをメイドがみつけて両親を呼び、こっぴどく怒られた。  ――あの頃とは違う、いまは気にせず好きなだけ見られる。 「……とても綺麗だね……ヘッ、クシュン」 「グ、グシュン」  二人で大きなくしゃみをして、グレは鼻水を垂らした。その可愛らしい姿を微笑み見て、もう一度、夜空を眺める私の肩にグルは表情固く手を置く。 「グルさん?」 「春でも、この辺りは日が暮れると冷えてくるから、そろそろ家に帰ろうか。星々が見たければ、暖かくなってから見に来ような」 「はい、みんなで見に来ましょう!」 「ギャオーン」  グルの転移魔法で家へと帰って来た――カゴに採取したヨモギのことを聞くと。明日になったら、ばっちゃん家に持って行くと言い、グルは玄関にカゴを置いていた。 「ほら、エルモとグレはここ座って」  エルモの手とグレを抱っこしてベッドに座らせると、グルは奥の部屋に行き、大きなブランケットを二枚持ってきて、体を温めろと二人をグルグル巻きにした。 「次に温かい飲み物だな」  キッチンでお湯を沸かして、フライパンを温めだす。 「グルさん、私も手伝います」 「だーめ、エルモは動くな!」  と、沸いたお湯でコーヒーを入れて、グルはフライパンでチョコパンをあたため始めた。 「そうだ!」  指をパチンと鳴らして小さな火玉をだして『二人を温めてくれ』と、エルモ達の周りに火の玉を飛ばした。 「この火の玉、温かいけど……触っても大丈夫?」 「ああ、大丈夫。いま出したのは、火のチビ精霊だから燃え移らないよ」  ――火のチビ精霊? 『アハハハッ、燃やしちゃうぞ!』 『キャハハ、フフッ、燃やしちゃうぞ!』 『ボウ、ボウ!』 「きゃっ……この子達、私達のことを燃やしちゃうって、言っているわ」 「ギャオーン」 「こらっ、お前らエルモとグレに意地悪するなって……え、ええ? チビ精霊の声が聞こえたのか? 精霊の姿は見える?」 「精霊の姿?」  グルは淹れたてのコーヒーをテーブルに置き、驚きの表情を浮かべていた。 「声はするけど、見た目は火の玉かな?」 「火の玉? 火の精霊の姿は見えないけど声は聞こえるのか……訓練すればみえるかな? エルモ、グレ、コーヒーとチョコパンがあたたまったぞ!」 「はーい」  ブランケットを羽織ってグレとテーブルに着くと、火の精霊達も笑いながらフワフワついてきた。 「グルさん、私もこの子達が見える様になるの? よし、ンンッ、ん? ……あれ、見えない?」  目を開いたり、目を細めたりしたけど……どうやっても見えない、そんなエルモの姿を見てグレは眉をひそめた。   「エルモは何してるんだ?」 「え、私にも精霊達が見えないかなって? ……でも、どうやるかは分からないから……とりあえず瞳に力を入れてみたわ」 「はぁ?」 「ギャオン?」  エルモの行動に、グル、グレ、火のチビ精霊達は呆気に取られる。  ――そして 「ククッ、ハハハッ、まじか!」 「キュー、キュー」 『クックク、面白い人間だな』 『キャハハ! 面白い』 『アハハッ、楽しい!』  みんなは笑った。 「ひ、酷い……わたし、真剣にやってるの!」 「だってなぁ、グレ」 「ギャオーン」  そう言い返しても、みんなの笑い声は止まらない。最後にエルモまで、赤を真っ赤にしながら笑ってしまい、みんなで楽しい夜を過ごした。
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