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十六
「グルさん、お風呂あきましたよ」
タオルで髪を拭きながら出ると、グルとグレはベッドでまったりしていた。子トラのグレは眠いのか牙を見せ、大きなあくびをする。
「グレ、寝るな風呂に行くぞ。エルモは早く髪を乾かして、体を冷やさないように!」
「はーい」
湯冷めしないようブランケットを羽織り、火のチビ精霊達で髪を乾かし暖をとった。火の精霊達は楽しそうにエルモの周りを飛び。
口々に話しだす。
『ねぇ、さっきのチョコパンって美味しい?』
『目に力を入れたら、わたし達のことを見えた?』
『ふわぁぁっ、おねむ』
精霊、三人ともにバラバラな内容だ。エルモはそれに嫌な顔をぜずに一人一人にこたえた。
ーーチョコパンはパンに中に、チョコクリームがたっぷりで美味しいよ。
ーー力を入れても、さっぱり見えなかった。
ーー眠いのだったら、膝の上で寝る?
答えを返すと精霊達は次々話し、楽しいひとときを過ごしていた。そこにお風呂場からグルの声が聞こえる。
「エルモ、バスタオルを持って来てくれ!」
『あ、黒ちゃんだ』
『黒ちゃん』
『…黒』
精霊はグルを"黒ちゃん"と呼んだ、エルモは不思議に思ったけど。もう一度グルに呼ばれたので、タオルを持ってお風呂場に向かった。
「グルさん、バスタオル持ってきたよ……あ、」
(……裸!)
「エルモ、悪いがそのタオルでグレを拭いてやってくれ」
「……う、うん、わかった」
上半身裸で腰にタオルを巻いたグルは、グレを拭いてくれてと体を持ち上げた瞬間、グレはプルプル体を振って辺りに水しぶきを飛ばした。
「きゃっ、グレちゃん、いま拭くから待って」
「グレ落ち着けって!……エ、エルモ、それ隠せ!」
「え?」
みるみるグルの顔が真っ赤に染まる……なんと、パジャマ代わりにしているシャツは、グレの水しぶきで濡れて肌着が透けていたのだ。そして、いまエルモが着けている下着は……今朝、街でグルに買って貰ったブルーの下着。
(み、見られた……買ってもらったのと、新しい下着が嬉しくって、我慢できなかった)
エルモはグレを片手で抱きしめ、
もう片方の手でグルの視界を遮り。
「見ちゃダメー!」
真っ赤っかにしたまま叫ぶ。エルモはワンピースよりも先に、グルに見せてしまったのだ。
❀
濡れたシャツは洗濯物カゴに入れて、新しいシャツに着替えた……夜も遅くなり、火の精霊たちは「おねむーっ」「帰る」「また、呼んでね」と、グルに伝えて消えていった。
「キュー」
「ほかに怪我していないか見てるから、すこし我慢しろ!」
キッチンのテーブルでグレの体をチェックするグル。
グレはあちこち触られるのを嫌がっている。
「グレちゃん、我慢だよ」
「キューーッ」
エルモが近寄ったとたん、グレはテーブルを蹴って飛び上がり、彼女のひたいに肉球をポプッと押しつけた。その途端にエルモの体の力が抜け、崩れ落ちるところをグルにあわてて抱えた。
「兄貴! エルモにいきなり睡魔の魔法を使うな」
眠ったエルモをグルは抱きかかえて、ベッドまで運びソッと寝かせた。
「うるさい、おれは人間が大嫌いなんだよ!」
「だからといって、急にやる事はないだろう!」
睨み合うグルとグレ。
「なんだ? グルはその人間がお気に入りなのか? 辞めとけ……最後に嫌われるのはオレ達だ」
「それは……まだ、わからない!」
「はあ? そうに決まっている! グルにはオレと同じ目に合わせたくない。辛く、胸が引き裂かれるほどの衝撃を受けるんだぞ!」
ーー兄貴を裏切った、あの子か…
「わかってるよ」
好意があるように近付き兄貴を裏切り、俺たちと共に暮らしていた、緑の精霊に俺たちが嫌われる原因を作った人間。
「いや、お前はわかってない……グル。そうだ明日は満月だな、月に一度だけオレたちが戻ることを許された日。オレがその子を見極めてやる」
「ダメだったら、エルモをどうする」
「この家から、いや村から追い出す」
「……グレ」
「お前は何があっても、口をだすなよ!」
どうやら、兄貴は本気のようだ。
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