十八

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十八

 今日のバイトも終わり。エルモはおばさんとおじさんにパンと高級チーズの塊を貰った。ウキウキと街の中を袋を抱えて歩き、今晩の夕飯のレシピをエルモは考えていた。   (何を作ろうかなぁ? ジャガイモのチーズ焼き、ピザパンを作る? それともチーズハンバーグ……あ、チーズフォンデュなんでどう?)  チーズフォンデュの作り方は。チーズに小麦粉をまぶして小鍋にニンニクを塗り、白ワインを温めてチーズをゆっくり溶かす。あとは貰ったパンを食べやすく切って、ソーセージとベーコンを焼き、野菜も茹でてトロトロに溶けたチーズを付けて食べる。 (美味しそう。チーズフォンデュ、グルさんとグレちゃんは喜んでくれるかな?)  街の門まで来ると黒いローブ姿のグルと、今日はグレの姿も見えた。 「あ、グルさん、グレちゃん!」 「エルモ、おつかれさま」 「グー」  二人の元に急いで駆け寄るとグルに抱っこされたグレは、エルモに抱っこしてと手を伸ばしてくるーーパンの袋をグルの渡してグレを抱っこした。 「お迎えありがとう、グルさん、グレちゃん。今日はチーズを貰ったから。夕飯はね、チーズフォンデュにしようと思うの、どう?」  喜んでくれると思い伝えたのだけど、二人は不思議な顔を浮かべて首を傾げた。 「チーズフォンデュってなんだ?」 「グー」 (屋敷にいた頃、似たような食べ物があったからか、コッチでも馴染みのある食べ物だと思っていたけど……グルさんとグレちゃんはチーズフォンデュは初めてなのか) 「エルモ、チーズフォンデュとは、どんな食べ物だ?」 「ギャオン?」  ――えっと。 「チーズフォンデュはね。トロトロに溶かしたチーズに、パン、ソーセージ、ベーコン、ブロッコリー、ジャガイモなどのお野菜を付けて食べる料理よ」 「なに、トロトロのチーズにパンとソーセージ、ベーコン、野菜つけて食べる料理?ーー美味そう、楽しみだな、グレ」 「ギャオーン」  ――フフッ、楽しみかぁ、帰ったら美味しく作らなくちゃね。 ☆    家に着いてすぐエルモは、キッチンに立ち夕飯の支度を始めた。  ――あ、そうだわ。  チーズが冷えて固まらないよう、食卓の上でお鍋を温めたいとグルに伝えると「いいのがある」と言ってカセットコンロならぬ。魔法コンローーお鍋が一つのる大きさの、黒い平らな石を食卓の中央に置いた。 「平らな石がコンロになるの?」 「そうだ、この石には俺の魔法がかかっていて、こうやって触れると、キッチンのコンロ同様に火がつく仕組みだ」  石を触ると、ポッと黒い石に火が灯る。 「すごい、魔法って便利。これならチーズが冷えて固まらなくて済むわ。グルさん、グレちゃん、いま用意するから待っていてね」  キッチンでチーズがトロトロになるまで煮込み、食卓のコンロの上に置いた。あとは一口大に切ったパンと、こんがり焼いたソーセージ、ベーコンと茹でた野菜が乗ったお皿を並べる。 「エルモ、食べてもいいか?」 「いいよ、好きなものをこの串にさして、たっぷりチーズをつけて熱々のまま食べて……あ、火傷には気を付けてね」 「おう……フーフー、あ、あちっ、でも、美味い」 「ギャオーン、ギャオーン」  チーズをたっぷりつけて、食べ始めたグルにグレが飛び付く。 「おい待て、冷やさないと火傷するって!」 「ギャオン」 「待って、フーフー、フーフー、グレちゃん、はい」  よく冷ましてから口に持っていくと、パクリと食べて、グレはまた直ぐに口を開けた。 「ソーセージ美味しかった? 次はジャガイモだよ、グレちゃん」   「グー!」  パク、パク、美味しそうに食べるグレの姿が可愛くって、次、次、冷やして口に運んだ。 「おい、グレ、そんなにせがむな、エルモが落ち着いて食べられないだろう。お前のはここの皿に置くから、自分で冷やして食べろ」 「グー、グー」 「なに? 羨ましい? だと、ああ、羨ましいよ。俺もエルモにフーフーして"アーン"して欲しい」  グルの本音に驚きはしたものの。 「もう、グルさんたら……わかりました。フーフーしますね」  フーフー冷ましてグルに食べさせると、今度は俺の番だとグルにフーフーして食べさせて貰った。 「ンンッ、美味しい!」  しょっぱいチーズと食材に食事が進み。たくさん用意したパンとソーセージ、ベーコン、茹で野菜はみんなの胃袋に消えた。二人はチーズフォンデュに満足したのか、頬を赤くしてほっこりしている。 「美味かった、またやろうなチーズフォンデュ」 「ええ、やりましょう」 「ギャーオン!」  ☆  夕飯の後片付けを終えると昨日と同様に、グレの肉球がエルモの額にポンと当たると、エルモの意識は遠退き眠りについた。  その、よく眠れるグレの魔法は朝を持たず、エルモは真夜中にベッドの中で目が覚める。いつも、一緒に寝ているはずのグルにグレがベッドにいない。 「グルさん? グレちゃん?」  二人の名前を呼んでも、返事が返ってこない静かな部屋。え、ええ? 一人ぼっちが寂しくてエルモは二人を探しにブランケットを羽織り、玄関の開けると夜空に大きな月が浮かんでいた。 「今日は満月なんだ」  エルモは夜空を見上げて、まんまるな月を眺めていると。何処からか楽しげな声が聞こえてきた。 (……歌声と手拍子? どこから?)  高台になっているグルの家からあたりを見回すと、村の中央の広場に灯りが見えた。もしかして、そこにグルとグレがいる? と、エルモは村の広間に足を走らせた。  でも、近くに連れてエルモの足は止まる。  見えたのは……初めてみる獣人の人達。  その獣人達は楽しげに肩を組み、笑い、酒を酌み交わしていた。 (え、嘘……どうして?)  酒を飲みかわす獣人の輪の中に、決して会う事はないと思っていた、黒い精霊獣がいたのだ。
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