二十

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二十

 悲しげに「裏切られた」と言った。 「裏切られた? ……だ、誰にですか?」  月明かりのなか、声の主を探し始めたエルモに圧倒されたのか、若干どもりながら話しはじめる。 「――子供の頃、森で怪我をしたオレを不思議な力で、癒してくれた女の子だ……」 「え?」  怪我を不思議な力で治した女の子?   この話なんだか、乙女ゲームと似ているわ。 「……その女の子はさ、オレがの怪我が治っても森に会いにきてくれて、怖がらずオレに優しく接してくれた。何度も、いや何年もその子と会ううちにオレは彼女に惹かれて、彼女もまたオレを好きだと思っていた…………だからオレは告白してその子と番になって、森で仲良く暮らせると思っていたんだ……」  一段と沈んだ声になる。 「いっしょに過ごしたのに――その子はあなたからの告白を喜ばなかったの?」 「ああ、彼女は告白したオレをあざ笑った。わたしは養子に入って伯爵令嬢になったの。あなたみたいな野蛮な白いトラなんて『フラグが立ってしまえば要らないの!』だって」  フラグ? その言葉を使って、白いトラと出会う、その子は転生者で――ヒロインだ。いくら、ヒロインだからといって、何をしてもいいってことではない。  リリア!  忘れもしない。あの日ーーエルドラッドに呼ばれて庭園のすみにいくと、そこに何故か彼女がいた。  クスクス笑って近付き耳元で、 『ねぇ。エルモはいつまでエルドラッドを好きでいるの? 無理、無理、諦めたら? いくら努力しても悪役令嬢のあなたでは、エルドラッドと結ばれないの』  まだ、エルドラッドを好きで、辛く苦しんでいるときだった。リリア――いくら転生者で乙女ゲームを知っているからって…………やり方が酷い。  ここはゲームに似た世界なの。酷い事をされれば傷付くの、リリアは人をなんだと思っているの!  怒りと悲しみが一気に溢れた。 「……ウッ、ウウ」 「お、おい、どうした? お前が泣くんだよ」 「その子が酷すぎて涙が止まらないの! 平気で人を傷つけて! 裏切られる者がどれほど心が痛くて、辛く、悲しい思いをするのか知らなすぎるわ!」 「…………ちゃん」  ポタポタと一度、流した涙は止まらなく、エルモの頬を流れ続けた。その時ーーザッ、ザッと地面を蹴り、こちらに走ってくる足音が聞こえた。 「「あ、に、きぃーは、エルモに何したぁ!!」」  村の広場で仲間と戯れていた、大きな黒い精霊獣がコチラに飛んでくると、エルモを守る様に立ち"グルルルルッ"と唸った。   「ま、待て、違うんだ、グル!」  慌てて声を上げ、近くの建物の物陰から黒い精霊獣をグルと呼び、飛び出てくる小さな白いトラ。  え、 (ええ――! い、いま、私と話していたのはグレちゃんだったの? ヒロインと一緒にいたということは、グレちゃんが白い精霊獣?)  ……ずいぶんゲームと違って、コロコロして、可愛い見た目だけど。  とつぜん現れた、黒い精霊獣の怒りおさまらず叫ぶ。 「兄貴、なにが俺がエルモを試してやるだ! こんなに、エルモを泣かしやがって!」 「ヒェ……グル、泣かしたのは悪いが。エルモちゃんが泣いたのはオレの昔話をして後からで。オレがエルモちゃんに酷いことをして、泣かしたんじゃない!」 「はぁ?」  小さな白いトラと黒い大きなトラが言い合う、そばでエルモは驚いていた。――ちょっと、この黒い精霊獣は"グルさん"なの? (え、ええ――!)  満月の夜。  お酒を楽しむ獣人たちと、黒い精霊獣のグルと白い精霊獣のグレ、エルモは驚くことばかりだった。その黒い精霊獣に「エルモ」と呼ばれて少し不安げに揺れる、エメラルド色の瞳を向けられた。 「グルさん、なの?」 「……そうだ、グルだ。エルモはいまの俺の姿を見て、どう思う?」  どう思うって、 「おもいっきり抱きついて、モフモフ、スリスリ、したい……です」  もしこの世界で黒い精霊獣に会えたら、絶対にしたいと思っていたから、エルモは本音を素直に言った。 「お、俺に抱きついて、モフモフ? スリスリ?」 「ハハハッ、エルモちゃんは大胆だなぁ」    驚くグルと、笑うとグレがいた。
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