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二十一
「ごめん、ダメだったらいいの……」
「いや、ダメではないのだが」
触ってもいいはすごい発言だったみたいで、照れるグルと、今更ながら恥ずかしくなってくる。グレは照れあう私達を笑いながら見ていた。
「グル、エルモちゃんに本名を教えたんだし、抱きついてもらえよ。彼女のこと好きなんだろ?」
と言った。
「エルモに本名?」
グレはグル本人に名前のことを伝えた。グルは驚き、瞳を大きくして首を振る。
――コレはやばい。
「まだ、エルモに本名は教えてないけど?」
「え、そうなの? ふ~ん、エルモちゃんはどうしてか? お前の本名ティーグルを知っていぞ、なんでも書物で読んだとかで」
「書庫の書物? いやー兄貴、俺は書物に乗るほど偉くない」
「だってよ、エルモちゃん?」
二人が『なんで?』と聞くような、疑問にめいた瞳でエルモを見てくる。前世の記憶で、乙女ゲームで知っていたと言っでいい?
上手く説明できる?
話をして嫌われる?
など考えてしまい口籠もり、何も言えなくなる。
「……っ」
ーーどうするの私?
困っていたのだけど、グルの口元は次第に笑い。
「プッ、エルモの困り顔可愛い。俺はエルモならいいんだ。この姿を見て怖がらなかったら教えようと思っていた。本名を教えて逃さない、俺だけのものにしたかった……もう知っているのなら俺の名前を呼んでエルモ」
私を逃さない?
グルさんのもの?
「エルモは知ってるんだろ、俺の本名を……呼んでくれ」
ジリジリと、近付くグルの目は真剣で、その綺麗で吸い込まれそうだ。ゴクンと喉を鳴らし、覚悟して彼の名前を呼んだ。
「ティ、ティーグル」
エルモがグルの本名を呼ぶと、ブワッとグルの黒い毛が一気に膨らんだ。
「おおっ、凄い。もう、一度、呼んでくれる?」
「ティーグル!」
「うっ!」
「うっ?」
「「エルモ、たまらん」」
「きゃあ!」
グルが飛びつかれてドサッと押し倒される。
いつもとは違いハァハァと息遣いが荒く、エルモの頬をグリグリ、スリスリした。
――ひゃあ!
「ンッ……グルさん、待って、モフモフは嬉しいけど……激しいわ!」
「またねぇ、と言うか、いま自分が抑えられない」
長い鼻でグリグリ、グリグリ頬を押される。このとき、ほのかに香ったのはお酒の匂い。ーーこれは酔っ払いだわ!
「お酒の飲み過ぎ、酔っ払い!」
「酔ってねぇ」
この言い合い広間の仲間達が集まってくるけど、すでに酔っ払いのみんなは「やれー!」とか「いけー、グル!」と指笛、手拍子、声で囃し立てた。
「グルさん、みんな見てるって!」
「ごめん、エルモ。止めたくても、自分では止められない」
「ウヒョッ! 激しいなぁ、グル」
「グレちゃん! そんなところで黙って見てないで、グルさんを止めて、みんなに見られて恥ずかしい!」
「いやー、無理だって」
ーーそんなぁ!
いいだけグリグリ、スリスリをやって、グルは満足したのか、ムフゥーンと横に寝そべった。
(もう自分だけ満足したわね、許さない!)
「グルさーん! 覚悟して!」
「え、おい、エルモ!」
今度はエルモがグルの飛び付き、モッモフの胸に顔を埋めた。
(や、やわらかい、モフモフで気持ちい!)
「もふもふ、もふもふ」
「……あ、いや、エルモ!」
恥ずかしさと、くすぐったからか、逃げようとするグルをキツく抱きしめた。
「ダメ! 逃さないんだからね!」
「ごめんて、エルモ」
そこに狸の獣人さんが近付き、杯を上にあげる。
「ふぉっふおっ、わしの見立ては完璧じゃ! 皆のもの、二人の若いカップルに乾杯じゃ!」
「ばっちゃん!」
「おばちゃん?」
満月の夜の宴会は朝方まで続き、グルはみんなに祝い酒を飲まされて撃沈した。広間の焚き火の近くに座り、エルモはみんなが楽しく酒を飲む姿をみて、村の人に貰った果物を貰って食べている。
(甘くて美味しい)
グレは近くに来ると膝の上に登り、ゴロンと寛ぎ「弟共によろしくな」と言い、口を開けて食べている果物を要求した。
それに酔っ払いグルは気付く。
「あー兄貴ぃー、そこは俺の場所だぞ」
「お前はデカすぎて無理だ、俺くらいなら丁度いい、羨ましいだろう」
「うう、羨ましい」
「ふふ、グルさんはここ」
横をぽんぽんと叩くと寄ってきて寝そべった。その柔らかな毛を撫でながら、思ったことを口にした。
「ねぇ、グルさん。私、グルさんに合えて幸せ」
「俺もエルモに会えて幸せだ。……もっと、エルモに甘えたい」
グルはエルモに顔を近付けて頬すりした。エルモは瞳を閉じて受け止める。
「甘えてください、その代わり私も甘えますからね」
「嬉しい、俺はエルモをたくさん甘えさせてやる」
「じゃー、オレもエルモちゃんに甘える」
グレはそう言って、口を大きく開けた。
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