二十二 この時王城では

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二十二 この時王城では

 グルとエルモ――村のみんなが幸せに浸っている頃。エルモが元いた国ではエルドラッドが執務室で一人悩んでいた。 「どうして、婚約者となったリリアは王妃教育をしない? 皇太子となった俺の妃になるだぞ!」  ――俺たちは時期、国王となり王妃となる。  エルドラッドがリリアに何か言うと「エルモと比べているの? もうやだ、伯爵家に帰る」だと? 俺はお前を選んだ。  エルモ嬢と比べたことない。  夜も眠れず頭を抱えて、毎晩ーー酒を煽るエルドラッドの目の下には酷い隈があった。それだけでなく、リリアは我がままであれが欲しい、これも買ってと散々金遣いが荒すぎる。いまは俺の資産で賄っているが、このまま王妃となったときには国民がついてこなくなる。 「俺はリリアとこのまま結婚をするのか? おい、誰かおらぬか! 誰が来てくれ!」  エルドラッドに呼ばれて扉の外に待機していた、側近は扉を開けて頭を下げた。 「お呼びでしょうか? エルドラッド様」 「お前か……頼んでおいた例の話はどうなっている?」 「人を雇い、探してはいるのですが……まだ、見つかりません」  側近の言葉が気に入らなかったのか、エルドラッドは手に持っていたグラスをテーブルに乱暴に置く。 「探せと言ってから一ヶ月以上はたつ。なぜ見つからぬ? お前はちゃんと探しているのか!」 「探しております。婚約破棄のあと、公爵家を追い出されてからの足取りが見つかりません。もしや相乗り馬車を乗り継ぎ国境を越えて、この国の外に出たのかもしれません」 「なら、国の外まで探しに行け! ツテを頼り、エルモが見つかるまで探して来い!」 「かしこまりました、エルドラッド様」  側近はエルドラッドに深く頭を下げて、執務室を後にした。 +  ここは王城ーーエルドラッドの婚約者リリアの寝室。リリアはシルクのベッドで、枕に八つ当たりをしていた。 「何がエルて呼ぶなよ!」エルはエルじゃないし、最近あいつまじうっざい! あれをしろ、これをやれって、わたしに出来るはずないじゃない!」  ボフボフと枕を殴り。 「顔を合わせば文句ばかり、エルに掛けた魅了の魔法が解けたのかな? エルと一緒になれば一生楽が出来て、贅沢し放題だと思ったのに……面倒になってきた」  わたしは何もせず贅沢が出来て美味しい物や、お金さえあればいいの。国王とか王妃なんて周りに任せて、適当にやれば良いじゃない。それもこれもあいつが悪い。  悪役令嬢のあいつが全部いけないの。  いくらエルの見ていないところで、忠告してもゲームの通りに動かなかった。わたしの最大の見せ場ーー熱病も起こさないなんて、信じられない! わたしは国のみんなに聖女様と呼ばれて崇められる、存在になるはずだったのに。  ーー悪役令嬢め!  リリアは枕を掴みベッドの上を、ゴロンゴロン転がり何か思いつきバッと体を起こした。 「いいこと思いついちゃった!」  乙女ゲームーー悪役令嬢がどうやって熱病を起こしたかも知っているし。わたしがこっそり熱病を逸らせて治せば、この国はわたしを聖女様と崇めてくれるはず。 「いい、それ良い案! わたしって、ちょーあったまいい!」  もし、何かあっても、責任はエルモに全部押し付ければ、いいだけだし。
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