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二十三
みんなは『お幸せに!』と楽しそうに笑い、酒を酌み交わして満月の宴会は終わった。グレは果物をたらふく食べて寝てしまい、グルは夜が明けるまで精霊獣の姿ままだと言った。
夜明け前。みんなと広場の後片付けをして、家に帰りベッドに潜る。
「悪いな、エルモ。ベッドを狭くして」
「気にしなくていいよ。グルさんは温かくて、モフモフで気持ちいいから」
「そうか? それなら良かった」
クイーンサイズのベッドはいつもより小さく感じた。グルの腕の間に潜り込み"グルルッ"と低く喉を鳴らすグルの頬にスリスリした。
もう一度、もう一度とスリスリしようとしたのだけどグルに『もう、エルモは寝ろ。バイトまで余り寝られないんだから』と、スリスリをもらった。
翌日。目覚めると目はしょぼしょぼで、寝癖がすごかった。
「ふわあぁ〜っ……眠っ」
「……俺も眠い」
「目が開かん……」
三人とも寝不足だ。スリスリの後…………私だってすぐに寝ようと思ったよ。
――でも、我慢ができなかった。
『もう一回、スリスリしてもいい?』
下から見つめてグルに甘えてすり寄ると、グルは困った声を上げたけど……モフモフ、スリスリが止まらない。
(……だって、甘えてもいい人ができたの。この世界に来てから毎日が大変で、あまり甘えたことがなかったから……)
『おい、甘えてくるのはいいけど。いまやらなくても、明日も、明後日も、これからズッと、俺に甘えていいんだぞ』
そう――グルの言うとおり、いまやらなくても。これからズッと、グルに甘えれるのはわかっていたけど、甘えたくって仕方がない。
『や、いま甘える、グルさん!』
『おわっ! エルモ、話を聞け!』
『いやっ、とまんないの! もう少しモフモフ〜!』
このときグルはエルモの様子が、いつもと違うことに気付いた。
『ん? 甘い果物の匂いの中に酒の匂い! エルモ、酒を飲んだなぁ!』
『え? お酒? あ、果実酒飲んだかも』
おばちゃんに勧められて果実酒を一杯だけ飲んでいた。体がポワッとして、気持ちよくて、グルがそばにいる――モフモフ、スリスリしたい。
『エルモ!』
また飛びついたエルモを受け止めたグル。その衝撃で、ベッドが揺れ目を覚ましたグレ。いきなり起こされたのと、じゃれ合う二人を見て。
『おい! いつまで二人で仲良くやってんだ? オレは独り身なんだぞ。エルモ、オレにもスリスリやってくれ!』
と、飛んできたグレを、グルは前足ですばやく押さえ込んだ。
『ククッ、そうはさせるか兄貴!』
『グル、てめぇーやったなぁ! やんのか!』
『ああ、やってもいいぞグレ!』
この後。グルとグレは体格差がありながらも、猫パンチ、ケリケリで仲良く戯れあい喧嘩を始める。その姿を隅っこで見て笑って、我慢できず、エルモも参加してゼンゼン眠れなかった。
姿が戻ったグルに、お酒は外で飲むなと注意された。
☆
「バイトにいってきます!」
「「いってらっしゃい!!」」
食卓で眠そうに朝食をとる二人に伝えて、エルモはバイトに向かう。家をでて村の中を進むと、村の人達の姿も昨夜とは違い戻っている、けど。みんなは宴会の疲れかだろう、眠そうに畑仕事をする姿がみえた。
(フフッ、みんなもお疲れね……宴会楽しかったから、次の満月の夜が待ち遠しいわ!)
☆
今日はお昼過ぎにパンが早々と完売。おばちゃんはレジカウンターで売り上げの計算をはじめ。エルモは商品棚棚を布巾で拭き。箒と、ちりとりを持ちホールの履き掃除を始めた。
(それにしても、今日のカツサンドは美味しそうだったなぁ)
棚に並べて"あっ"という間に売り切れてしまったと、エルモは特売カツサンドのかごを見ていた。掃除を終えて裏に回ると、なんと休憩室のテーブルの上にカツサンドが置いてあった。仕事中、エルモがズッとカツサンドを見ていたのを知った、おじさんとおばさんは別に作ってくれたのだ。
「エルモ、土産だ!」
「エルモちゃんにカツサンドのお土産」
「ええ! いいんですか? ありがとうございます、食べるの楽しみ!」
余の喜びようだったのか、おじさんとおばさんは嬉しそうに笑って、他のパンもと持たせてくれた。
「お疲れさまでした!」
店をあとにしてエルモは"魔法カード"を取り出して、グルにバイトが早く終わったことを伝えた。すぐにカードから『迎えに行くから、街の門で待ってて』と返ってくる。
街の門で待っていると、遠くからグルがくる姿が見えた。それに手を振るとグルは手を挙げた。
「おつかれさま、エルモ」
「グルさん、お迎えありがとうございます……あれ? グレちゃんは?」
「兄貴はまだ眠いって、ベッドで寝てるよ」
グルとエルモは並んで街から村までの帰り道、隣を歩くグルがエルモの手を握った。初めてのことで驚きグルを見上げると、彼は『フッ』と照れ笑いを浮かべて、
「……照れるな」
「フフッ、照れるけど……わ、私は嬉しいよ」
「そっか……俺も嬉しい」
二人は照れてしまい、しばらく沈黙が続いた。並んで歩き、村まであと少しの所で"ギュッ"とグルの手に力が入った。
「エ、エルモ! 次のバイトの休みに、一緒に精霊の森に行きたい」
「精霊の森? いいよ。薬草の採取に行くの?」
グルは違うと首を振る。
「精霊の森の奥にある……俺達の村にエルモを連れて行きたい」
「グルさん達の村?」
「ああ、俺達が六年ぐらい前に住んでいた村……なんだ」
――あ、シルフ村の事。
(たくさんの精霊と獣人達が仲良く住む村で、緑が多く、綺麗で、花が咲き誇るところ。乙女ゲームのスチルでは見たことがある……そこに連れて行ってくれるんだ)
「エルモ、俺と一緒に行ってくれる?」
真剣な目でグルに見つめられて、エルモは『はい』と頷いた。
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