二十七

1/1

1043人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ

二十七

 朝早く目を覚ますと胸元にキラリと光るものがあった。それはグルの瞳と同じ、エメラルド色の石が付いた。 「綺麗な……ペンダント」 「そう、気に入った?」  胸元のペンダントを眺めるエルモを、グルはそばでみつめていた。 「おはよう、グルさん。とても気に入りました」 「良かった、エルモ、おはよう」  グルから頬をスリスリ朝の挨拶をさせる。そのときグルのパジャマの隙間から見えた胸元に、エルモの瞳の色と同じ、サファイア色の石がついたペンダントをみつけた。 「私の瞳の色?」 「あ、気付いた? エルモのは俺の色で、俺はエルモの色で作ったんだ」 「グルさんの手作り? 嬉しい。ありがとう、大切にするね」  微笑んだエルモの頬にグルは優しくキスをする。次にグルはエルモの唇にキスしたいと視線で伝えると、エルモはコクンと頷き瞳を瞑った。  唇にグルの吐息を感じた瞬間、柔らかな唇がエルモの唇に重なり、チュ、チュと小鳥のようなキスが続く。チュっと、くちびるが離れて見えたのは幸せそうに笑う、グルの笑顔だった。  ――はじめてのキス。 「フフッ、照れちゃうね」 「ああ、照れるな」  そのあと、まったりベッドで過ごし。朝食を作るためにベッドから出ようとして気付く、静かだとは思っていたけど、ベッドの上にグレの姿はなかった。 (グレちゃんは?)  エルモがベッドの上を見て、グレを探していると気付き、 「兄貴を探しているのか?」 「うん、グレちゃんなら「なにしてる?」って、絶対に邪魔すると思ったから」 「ハハッ、そうだな。兄貴は風呂の後に村に行くと言ったから、夜の見張りをお願いした」  村の見回り……朝はグレで、夜はグルが見回りすると、二人で話し合い決めたらしい。深夜、エルモが寝静まった後、見回りに行っていたと聞いた。 「そっか。グレちゃん朝食いるかな?」     隣でコーヒーをいれるグルに聞くと。 「んー、兄貴が戻ってきて、何か食べたいって言ったら俺が作るよ」 「うん、わかった」  朝食は黒胡椒を効かせた目玉焼き乗せトースト、サラダとスープ。グルのお昼に一口ホットドックとサンドイッチを作った。  朝食も終わり、バイトにいく準備を終えたエルモは玄関で、キッチンで後片付けグルに声をかける。 「グルさん、いってきます」 「おう、いってらっしゃい。終わったらカードに連絡してくれ」 「はーい!」  グルに貰ったペンダントをつけて、エルモは元気よく村を後にした。 (ペンダント嬉しい! 私もお給料が入ったらグルさんに、何かプレゼントしたいな) ☆  忙しいお昼時。次々と卵たっぷりサンドイッチ、コロッケパン、カツサンドが飛ぶように売れる。エルモは忙しいお昼の時間を迎えていた。 「エルモちゃん、そのパンを並べ終えたら。次、レジに入って」 「はーい!」  いつもは常連さんばかりがくる街のパン屋。リンリンとドアベルが鳴り、はじめてのお客が三人ほど店に訪れる。店の中にいたお客とおじさんとおばさんは、その訪れた客に驚いていた。 「いらっしゃいませ」  彼らはパン屋に来たのに、パンには目もくれず店の中を見回して、誰かを探しているよみたい。その中の一人の男性が声を上げると、次々周りを気にせず話しだす。 「おい、この店か?」 「ああ、スゲェ可愛い看板娘がいるって聞いた」 「どれどれ?」 「お前ら……他の客がいるんだ、静かにしろ!」  長身でガタイが良く、白い鎧を着て腰に剣をさす男性達。その人達の胸と質の良いマントに鷹と剣の紋章が付いていた。 (あの鷹と剣はこの国の国章だわ……国境を通る時に見た覚えがある。だとすると、この人達はサーティーアの騎士?) 「いたぞ、レジだ!」  一人の男があげた声に他の二人は集まり。レジにいるエルモを上から下まで、舐めるような視線で見てくる。  ーーなんて、嫌な目。 「本当だ、可愛い」 「だろう? この前。ここを通ったときに店の片付けをする、この子を見たんだー」 「お前、名前は?」  ずらっと三人の若い男がレジに集まり、会計をしたい他のお客さんの邪魔をした。彼らの行動と発言は騎士らしからぬ下品。 「すみません、他のお客さんの邪魔になります」  声を上げてエルモは騎士達に注意をした。――その時またドアベルが鳴り、店にもう一人騎士が現れる。 「先輩達探しましたよ。こんな街のパン屋でなにしてるんすか? そろそろ戻らないと訓練に遅れますよ」 「わかってるよ、お前は外で待ってろ!」 「待ってますけど――今日、訓練に遅れると騎士団長に怒られますって〜先輩!」 「うるさい、お前が騎士団長に上手く言えばいいんだ」 「ゲッ、先輩酷いなぁ〜。僕が言えないの知ってるでしょう」  エルモは遅れて入ってきた、この男に見覚えがあった。 (うそ、なんで? こんな所にこの人がいるの?)  その男は男達と同じ――サーティーア国の鎧を着ている。エルモはこの男に正直会いたくなかった。 『君、いつまでエルドラッド殿下の側にいるのさぁ〜? 君がいるとリリアが悲しむんだ、さっさと去れよ』  会えばリリアがと、当時――公爵令嬢の私に絡んできた。金色に近い茶髪と人懐っこい垂れ目の琥珀色の瞳。伯爵家の次男アルベルト・ローリス、乙女ゲームの攻略対象の一人、チャラ男だ。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1043人が本棚に入れています
本棚に追加