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二十七
朝早く目を覚ますと胸元にキラリと光るものがあった。それはグルの瞳と同じ、エメラルド色の石が付いた。
「綺麗な……ペンダント」
「そう、気に入った?」
胸元のペンダントを眺めるエルモを、グルはそばでみつめていた。
「おはよう、グルさん。とても気に入りました」
「良かった、エルモ、おはよう」
グルから頬をスリスリ朝の挨拶をさせる。そのときグルのパジャマの隙間から見えた胸元に、エルモの瞳の色と同じ、サファイア色の石がついたペンダントをみつけた。
「私の瞳の色?」
「あ、気付いた? エルモのは俺の色で、俺はエルモの色で作ったんだ」
「グルさんの手作り? 嬉しい。ありがとう、大切にするね」
微笑んだエルモの頬にグルは優しくキスをする。次にグルはエルモの唇にキスしたいと視線で伝えると、エルモはコクンと頷き瞳を瞑った。
唇にグルの吐息を感じた瞬間、柔らかな唇がエルモの唇に重なり、チュ、チュと小鳥のようなキスが続く。チュっと、くちびるが離れて見えたのは幸せそうに笑う、グルの笑顔だった。
――はじめてのキス。
「フフッ、照れちゃうね」
「ああ、照れるな」
そのあと、まったりベッドで過ごし。朝食を作るためにベッドから出ようとして気付く、静かだとは思っていたけど、ベッドの上にグレの姿はなかった。
(グレちゃんは?)
エルモがベッドの上を見て、グレを探していると気付き、
「兄貴を探しているのか?」
「うん、グレちゃんなら「なにしてる?」って、絶対に邪魔すると思ったから」
「ハハッ、そうだな。兄貴は風呂の後に村に行くと言ったから、夜の見張りをお願いした」
村の見回り……朝はグレで、夜はグルが見回りすると、二人で話し合い決めたらしい。深夜、エルモが寝静まった後、見回りに行っていたと聞いた。
「そっか。グレちゃん朝食いるかな?」
隣でコーヒーをいれるグルに聞くと。
「んー、兄貴が戻ってきて、何か食べたいって言ったら俺が作るよ」
「うん、わかった」
朝食は黒胡椒を効かせた目玉焼き乗せトースト、サラダとスープ。グルのお昼に一口ホットドックとサンドイッチを作った。
朝食も終わり、バイトにいく準備を終えたエルモは玄関で、キッチンで後片付けグルに声をかける。
「グルさん、いってきます」
「おう、いってらっしゃい。終わったらカードに連絡してくれ」
「はーい!」
グルに貰ったペンダントをつけて、エルモは元気よく村を後にした。
(ペンダント嬉しい! 私もお給料が入ったらグルさんに、何かプレゼントしたいな)
☆
忙しいお昼時。次々と卵たっぷりサンドイッチ、コロッケパン、カツサンドが飛ぶように売れる。エルモは忙しいお昼の時間を迎えていた。
「エルモちゃん、そのパンを並べ終えたら。次、レジに入って」
「はーい!」
いつもは常連さんばかりがくる街のパン屋。リンリンとドアベルが鳴り、はじめてのお客が三人ほど店に訪れる。店の中にいたお客とおじさんとおばさんは、その訪れた客に驚いていた。
「いらっしゃいませ」
彼らはパン屋に来たのに、パンには目もくれず店の中を見回して、誰かを探しているよみたい。その中の一人の男性が声を上げると、次々周りを気にせず話しだす。
「おい、この店か?」
「ああ、スゲェ可愛い看板娘がいるって聞いた」
「どれどれ?」
「お前ら……他の客がいるんだ、静かにしろ!」
長身でガタイが良く、白い鎧を着て腰に剣をさす男性達。その人達の胸と質の良いマントに鷹と剣の紋章が付いていた。
(あの鷹と剣はこの国の国章だわ……国境を通る時に見た覚えがある。だとすると、この人達はサーティーアの騎士?)
「いたぞ、レジだ!」
一人の男があげた声に他の二人は集まり。レジにいるエルモを上から下まで、舐めるような視線で見てくる。
ーーなんて、嫌な目。
「本当だ、可愛い」
「だろう? この前。ここを通ったときに店の片付けをする、この子を見たんだー」
「お前、名前は?」
ずらっと三人の若い男がレジに集まり、会計をしたい他のお客さんの邪魔をした。彼らの行動と発言は騎士らしからぬ下品。
「すみません、他のお客さんの邪魔になります」
声を上げてエルモは騎士達に注意をした。――その時またドアベルが鳴り、店にもう一人騎士が現れる。
「先輩達探しましたよ。こんな街のパン屋でなにしてるんすか? そろそろ戻らないと訓練に遅れますよ」
「わかってるよ、お前は外で待ってろ!」
「待ってますけど――今日、訓練に遅れると騎士団長に怒られますって〜先輩!」
「うるさい、お前が騎士団長に上手く言えばいいんだ」
「ゲッ、先輩酷いなぁ〜。僕が言えないの知ってるでしょう」
エルモは遅れて入ってきた、この男に見覚えがあった。
(うそ、なんで? こんな所にこの人がいるの?)
その男は男達と同じ――サーティーア国の鎧を着ている。エルモはこの男に正直会いたくなかった。
『君、いつまでエルドラッド殿下の側にいるのさぁ〜? 君がいるとリリアが悲しむんだ、さっさと去れよ』
会えばリリアがと、当時――公爵令嬢の私に絡んできた。金色に近い茶髪と人懐っこい垂れ目の琥珀色の瞳。伯爵家の次男アルベルト・ローリス、乙女ゲームの攻略対象の一人、チャラ男だ。
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