二十八

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二十八

 ほんとうに――ほんとうに彼は嫌な人だった。目の前のアルベルトを見て、さらに学園の頃を思いだす。  アレは学園の庭園のベンチで王子と、ヒロインが寄り添う姿を遠目に見ていた。その私の横に立ち、彼はニヤニヤ嫌な表情を浮かべて見下ろし『君では、リリアには勝てないよ。諦めなよ』と茶化しながら言った。  悔しくて、涙が出そうで『貴方に言われなくてもわかっている!』と反論したかった……けど、何も語らずその場を後にした。  婚約破棄の場面でも、ニヤニヤと笑い見下していた。その嫌味なアルベルトがいま目の前にいる。 (すごく嫌い――大嫌い!) 「すみません、商品を買わないのでしたら……帰ってください! 他のお客様の迷惑になります!」 「おー! 怒った顔も可愛い」 「今晩飲みに行かない?」 「行きません!」  騎士と言い合うエルモにアルベルトはニヤッと笑った。――ビクッ! 何か言ってくるかもと、エルモは身構えていたけど彼はヘラヘラと笑い。うるさい先輩騎士達の背中を押して「うるさくして、ごめんねぇ〜」と、店の外にさわぐ騎士達を連れて出ていった。  ――あの人達が帰った……。  騎士がいなくなり、お客も"ホッ"として買い物の続きを始めた。しかし――リリン、リリンとドアベルを鳴らし、アルベルトは店の中に戻ってくる。何をするかと再度、身構えたのだけど。彼は店にいるお客とおじさん、おばさん、そして、エルモにも軽く頭を下げた。 「すみません、お騒がせいたしました。レジのお姉さんもごめんねぇ〜」  もう一度、頭を下げてアルベルトは店を出て行った。騎士達の騒ぐ大きな声が遠くなり、聞こえなくなった。よかった。アルベルトは私がエルモだと気付かなかったみたい――そうよね。服装は質素だし髪型たって、昔みたいに凝った髪型ではない……お化粧もしていない。  エルモは店の外をみつめたけど……そこに、さっきまでの騎士の姿はなかった。――フゥッ……長身の騎士に囲まれて、こ、怖かった。……はやく、グルさんに会って癒されたい。  胸を抑えるエルモにおばちゃんは心配して、奥から出てきた。 「エルモちゃん、大丈夫?」 「はい、大丈夫です」  その後は何もなく営業してパンも完売した。後片付けも終わり、今日の仕事は終わったと、グルに魔法カードで伝えると。すぐに「迎えに行くよ」と言ってくれた。 (はやく、グルさんに会いたい) 「お先に失礼します。おつかれさまでした」  貰ったパンを胸に抱えて、グルとの待ち合わせの場所へ行こうと店からでると、店の真正面に腕を組み、壁に寄り掛かるアルベルトの姿があった。彼はエルモのバイトが終わるのを待っていたらしく、ニヤニヤ笑い近付いてきた。  ――来ないで!  エルモは走って逃げようとしたのだけど、アルベルトの動きがいち早く手を握られる。 「いたっ、は、離してください!」 「ハハッ、嫌だね。……おれはお前をズッと探していたんだ。ククッ、まさかお前が、このサーティアー国にいるとはね――会いたかったよ〜エルモ嬢」  アルベルトはニヤリと笑った。
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