1043人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
二十八
ほんとうに――ほんとうに彼は嫌な人だった。目の前のアルベルトを見て、さらに学園の頃を思いだす。
アレは学園の庭園のベンチで王子と、ヒロインが寄り添う姿を遠目に見ていた。その私の横に立ち、彼はニヤニヤ嫌な表情を浮かべて見下ろし『君では、リリアには勝てないよ。諦めなよ』と茶化しながら言った。
悔しくて、涙が出そうで『貴方に言われなくてもわかっている!』と反論したかった……けど、何も語らずその場を後にした。
婚約破棄の場面でも、ニヤニヤと笑い見下していた。その嫌味なアルベルトがいま目の前にいる。
(すごく嫌い――大嫌い!)
「すみません、商品を買わないのでしたら……帰ってください! 他のお客様の迷惑になります!」
「おー! 怒った顔も可愛い」
「今晩飲みに行かない?」
「行きません!」
騎士と言い合うエルモにアルベルトはニヤッと笑った。――ビクッ! 何か言ってくるかもと、エルモは身構えていたけど彼はヘラヘラと笑い。うるさい先輩騎士達の背中を押して「うるさくして、ごめんねぇ〜」と、店の外にさわぐ騎士達を連れて出ていった。
――あの人達が帰った……。
騎士がいなくなり、お客も"ホッ"として買い物の続きを始めた。しかし――リリン、リリンとドアベルを鳴らし、アルベルトは店の中に戻ってくる。何をするかと再度、身構えたのだけど。彼は店にいるお客とおじさん、おばさん、そして、エルモにも軽く頭を下げた。
「すみません、お騒がせいたしました。レジのお姉さんもごめんねぇ〜」
もう一度、頭を下げてアルベルトは店を出て行った。騎士達の騒ぐ大きな声が遠くなり、聞こえなくなった。よかった。アルベルトは私がエルモだと気付かなかったみたい――そうよね。服装は質素だし髪型たって、昔みたいに凝った髪型ではない……お化粧もしていない。
エルモは店の外をみつめたけど……そこに、さっきまでの騎士の姿はなかった。――フゥッ……長身の騎士に囲まれて、こ、怖かった。……はやく、グルさんに会って癒されたい。
胸を抑えるエルモにおばちゃんは心配して、奥から出てきた。
「エルモちゃん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
その後は何もなく営業してパンも完売した。後片付けも終わり、今日の仕事は終わったと、グルに魔法カードで伝えると。すぐに「迎えに行くよ」と言ってくれた。
(はやく、グルさんに会いたい)
「お先に失礼します。おつかれさまでした」
貰ったパンを胸に抱えて、グルとの待ち合わせの場所へ行こうと店からでると、店の真正面に腕を組み、壁に寄り掛かるアルベルトの姿があった。彼はエルモのバイトが終わるのを待っていたらしく、ニヤニヤ笑い近付いてきた。
――来ないで!
エルモは走って逃げようとしたのだけど、アルベルトの動きがいち早く手を握られる。
「いたっ、は、離してください!」
「ハハッ、嫌だね。……おれはお前をズッと探していたんだ。ククッ、まさかお前が、このサーティアー国にいるとはね――会いたかったよ〜エルモ嬢」
アルベルトはニヤリと笑った。
最初のコメントを投稿しよう!