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三
エルドラッドの変化は学園に入学をして、直ぐに起こる。
――それは入学式後のこと。
エルドラッドとならんで学園の渡り廊下を歩いていた。その渡り廊下の反対側からこちらに歩いてくる、ピンクのふわふわ髪、ぱっちりとしたピンク色の瞳の女の子。
一目見て、彼女がヒロインのリリアだと気づいた。このときエルドラッドがリリアに声をかけて、この物語は始まる。
『君………もしかして、トト村のリリアちゃん?』
『そうですが………誰?』
『忘れてしまったのかい? 子どもの頃、夏になったら一緒に遊んだじゃないか』
『え、まさか………エル君?』
『そうだよ、君はあの頃と変わらないね』
二人はすぐに意気投合して傍にエルモがいるのにもかかわらず、昔の思い出の話で盛り上がる。
(ふたりの会話は乙女ゲームを思い出しているから知っていたけど……エルモに声もかけず、二人で盛り上がるのは無神経だわ)
しかし、この時の出会いをエルドラッドは、運命的な出会いだと思い。リリアが『エル君』と、エルドラッドを呼ぶことを許す。
『エル君』
『リリア』
周りの視線を気にせずお互いを呼び。
エルドラッドは自分を第一王子としではなく、普通の男性として接してくれるリリアに、好意を抱き始めるのだ。
そして、エルドラッドは言う。
『近頃のエルモは「王子として周りを見た方がよろしくて?」「周りが見ていますわよ」と僕に文句ばかり言うけど。リリアは僕の体を心配してくれて、笑顔で癒してくれる』と。
頭の中がお花畑。
いまのエルドラッドには何を伝えても無駄だと知った。ーーそれは二日前。王城でエルドラッドにお会いしたときのこと。
『なんだ、来ていたのか――僕はいまから、リリア嬢と過ごすから君は帰ってくれ』
と、冷たい言葉を浴びせたのだ。
(物語を知っているから、エルドラッドからの冷たい言葉は覚悟していたけど――本人の口から言われると、あんがい傷付くのね)
『わかっていますわ――私も殿下に会いに来たのではありません。きょうは王妃様に呼ばれて来ただけです………殿下には連絡が伝わっていなかったのかしら?』
『連絡? ああ、朝食のとき母上が呼んだといっていたな』
『よかった、おわかりいただけたようで。では王妃様との約束の時間ですので失礼いたします』
礼をして背を向けた――ほんと疲れる。
私を見れば自分のリリアにないか言うんじゃないかと、にらみつけ、言いがかりをつけてくる。
(悲しいけど、エルドラッドは忘れてしまったのね)
幼頃から自分の時間も持てず王城へと登城をして、王妃になる為に膨大な量の教育。ダンス、礼儀、笑い方、歩き方、テーブルマナーとたくさんの努力をしてきたことを。
それなのにエルドラッドは他の貴族がいるところで、婚約者でもないリリアと寄り添い、陛下がえらんだ婚約者のエルモに帰れと言い放つ。
――ほんと、自分のことしか考えない。
(陛下と王妃もその行為を許して、黙認しているのも問題なのだけど)
はあ、私の両親にも疲れる。
エルドラッドが舞踏会、晩餐会でエルモをエスコートしないときがあれば。
『お前が、エルドラッド王子殿下の心を捕まえていないから恥をかいた!』
『よくも恥をかかせたな、たるんでいるのではないか?』
と罵られて、叩かれた。
この人たちも、エルモのことは考えてくれない。
誰も、私の努力を認めてくれない。
悲しいけれど、これが現実だ。
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