三十

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三十

「街の入り口に来るのが遅いから、迎えに来たよ。エルモ」  グルはエルモの腰に手を回して連れて行こうとした。それを阻止するかのように、アルベルトは声を上げる。 「はぁ? エルモ、一丁前に男だと! ハハハッ、うける!」  アルベルトはグルとエルモを茶化す様に、お腹を抱えて笑う。ムッとしてアルベルトに突っかかろうとして、グルに止められた。 「グルさん?」 「エルモは行かなくていい。ここで待っていて」  グルはエルモから離れると、アルベルトに近付く。 「君はエルモと知り合いかは知りませんが。俺の大切な恋人ですので、気軽に呼び捨てにしないでください」  ビシッとグルに言われても、ヘラヘラと笑うことをやめないアルベルト。二人はしばらく見つめ合い、アルベルトは品定めをする様にグルを見つめた。 「へぇ〜、お前がエルモの恋人か……なんだか、頼りなさそうだな。エルモ、こんな奴よりも俺の方があいつを知っているし、お前を守ってやれるぞ?」  ――アルベルトが私を守る?   ――友を傷付けたアルベルトが!   「いやっ! ……私は騎士様に守っていただかなくても結構です。帰りましょう、グルさん!」 「え、エルモ?」  何か言いたそうなグルの手を握り、アルベルトに背を向けた。その背にアルベルトは笑いながら。 「おい、エルモ? ……まぁ、いいっか〜。また明日、会いに来るよ」 「来ないで!」 「ハハハッ、そう嫌がるなよ〜! またな」  何を考えているかわからないアルベルトは、手をひらひらと振り帰って行く。グルはそんなアルベルトの姿が見えなくなるまで見ていた。  ――アルベルトのあの態度。これは、グルさんに説明をした方がいいよね。ここに来る前は公爵令嬢で婚約者がいたと。 ◇ 「エルモ、帰ろうか」 「うん」  村までの帰り道。二人、手を繋ぎながら黙ったままだった。何度か話し掛けようとしたけど……何も言えなかった。  隣を歩くグルが息を吸って。   「あのさ……エルモがさっきの男の事を話したかったら聞くけど、嫌だったら俺は聞かない」 「グルさん?」  本当は聞きたいはずだ……あの嫌味なアルベルトの事、アルベルトが言ったあいつの事も。いずれは話さなくてはならないこと。 「私、グルさんに聞いて欲しい……家に帰ったら全部話すわ」  彼の目を真っ直ぐに見て言った、彼は頷き。   「そうか、わかった。……ところで今日の夕飯はどうする?」  ――夕飯? いきなり話題を変え? 「今日は……チーズ、ハム、レタスがあるから、貰った食パンで挟んでホットサンドを作ろうかな? ゆで卵を挟むのもいいよね」 「おお、うまそうだ。早く俺達の家に帰ろう。コーヒーは俺が入れるから。ホットサンドはエルモな。後サラダとスープも欲しい」 「サラダとスープか、いいね! ……はぁ、お腹空いた。グルさん、早く家に帰りましょう!」  二人の足はどんどん村に向けて、早足になるのだった。
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