三十一

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三十一

 夕飯が終わり、コーヒーを入れてくれたグルと、向かい側に食卓に座り、グルはエルモの固い表情を見て眉をひそめた。 「エルモ、言いたくなかったら、今はいい。いつか教えてくれればいいよ」    ――私は違うと首を振る。 「グルさん、違うの。どこから離せばいいか考えていただけ。グルさんにはちゃんと聞いて欲しい」  グルを見つめると、うんと頷いた。 「わかった、ゆっくりでいいから、話して」 「ありがとう。……私はここに来る前まで隣国? いいえ。サーティーアより西の端にあるファレーズ国生まれで、第一王子の婚約者でした」 「え、エルモが第一王子の婚約者……? 最初のころの話し方と、歩き方で貴族出身だとは思っていたけど……王子の婚約者だったのか」  驚き、コーヒーを一口飲んだグルの喉がゴクリとなる。話し方と歩き方で貴族だとわかってたのか……。ここから先の話は。グレちゃんを裏切ったであろう、リリアの話。   (グルさんにリリアの名前を出したらわかっちゃうよね。いまはリリアの名前を出さずに話そう)  エルモはグルに幼い頃から王子の婚約者に選ばれた話。学園に入学してからの話をした。 「王子と私は学園を出たら結婚するはずだった。式の準備、話も進んでいた。だけど――学園で王子に好きな人ができてしまって、卒業式あとの舞踏会で王子に婚約破棄を言い渡された。……私の家は格式を重んじる公爵家だから家からも追い出されて。相乗り馬車を乗り継ぎ国境を越え、トランクケース一つでサーティーア国まで来たの」 「そっか、エルモは一人で長旅をしてサーティーアに来て、この村の俺の家にきて、俺のベッドに寝ていたのか」  ――え、グルさんのベッド!  グルは王子の話はどうでもよかったのか。クッククと、私との出会いを思いだして、思い出し笑いをした。 「あ、あれは! 地主のおばちゃんにこの家が空いてるって、幽霊屋敷だって聞いたの! 学園の頃――散々な目にあったから幽霊くらい怖くないって思って決めた。そしたら……グルさんの家だったの!」 「フフ、そうだったね。エルモは可愛いネグリジェ着てた」 「!」  ネグリジェの話題にあのときの自分の姿と、グルの裸を思い出して、エルモは顔を一瞬に真っ赤にする。    グルは焦るエルモの姿を楽しげに見ていた。 「まあ、エルモとは違うけど。俺はその王子に感謝だな、可愛いエルモを俺の元にこさせてくれた――俺は手放さないし、大切にするよ」 「ええ、私も離れないし、グルさんを大切にするわ!」
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