三十二

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三十二

 さっき、街で会ったアルベルトの話になる。 「エルモがファーレズ国の元公爵令嬢だとはわかった。じゃあー街で会った、あの、いけすかないアルベルトという男は誰だ?」  グルの表情が苦虫をかみつぶしたような顔に変わる。彼もまたエルモと同じでアルベルトが嫌な様子。簡単にアルベルトの説明すると彼は乙女ゲームの攻略対象……そんなこと、もちろんグルには言えない。 「えっと、あの人は同じ学園にいて王子の学友なの。接点があまりなかったから、彼がサーティーア国の出身なんて知らなかったわ」  王子以外の攻略対象は学園の中だけの物語だったから、彼の故郷の話もゲームの中に出なかった――もしかすると、攻略の本とか、私が遊べなかったファンディスクにはでていたかもしれないけど。 「その彼が学友だった王子から手紙がきたんだって、内容はわからないけど……捕まるとか、去り際に俺だったら"あいつ"から守れるといったわ。それが何を意味するかまではわからない」 「そうだよな。アルベルトがいった"アイツ"が王子をさすのだったら……自分の都合だけで婚約破棄をしたくせに、エルモを捕まえようとしているのか?」 「怖い、私……そうとう王子に嫌われていたから」     何のために捕まえるの? ますますエルドラッドが何を考えているのかわからない。  ――頭が混乱する。  落ち着きたくて、グルにいれてもらったコーヒーを一口飲んだ。ホッとする味……この先もずっと、このコーヒーをグルのそばで飲みたい。 「……嫌だ、捕まりたくない。あんな場所には戻りたくない……グルさんの側にいたい」  心が苦しくなる、酷いことは言われたくない。 「大丈夫だ。チェリチタの木の下でエルモを守ると誓った。絶対にアイツにも、王子なんかに渡さない、エルモを守る」 「嬉しい、グルさん……」    嬉しくってテーブルから勢いよく立ち上がって、椅子を倒し、飛びつく様にグルに抱き付いたエルモを、力強く抱き締めてくれた。 「エルモ、話してくれてありがとう」  グルが近づくのが分かった、それに合わせて目を瞑ると唇がかさなる。 「エルモ……もう少し」  長く続いたキスに互いに息の上がり、コツンと、グルのおでこがくっ付く……グルは深い息を吐き。 「可愛い。すごく、エルモが好きだ」 「私もだよ、グルさんが好き」  もう一度、唇が触れ合いそうなときに…… 「「グル、エルモちゃん、聞いてくれぇーー!」」  大きな音出して勢いよく玄関を開けた、グレが転がり込んできて、興奮した勢いで喋り出す。 「グル、エルモちゃん、聞いてくれよ! チェリチタの木に花が大量に咲いたんだー! オレ、嬉しくって走ってきた!」 「……おう、それは良かったな、グレ」 「よかったね、グレちゃん」  グルとエルモ、二人抱き合う姿を見て。 「……? あ、ああ、そういうことかぁ! ……お邪魔しました! オレ、村のみんなにも伝えてくる!」  ニンマリ笑ってソッと玄関を締めて、グレは村のみんなに花が咲いたといえばいいのに『グルとエルモちゃんがキスすると、村のフェリチタの木に花が咲くんだ!』といいまわった。  それ以来――花が咲くとグレは大喜びで、村のみんなにいい回るものだから……バイトにいく途中で出会ったみんなに「ありがとう!」とお礼を言われて。  エルモは嬉しいやら、恥ずかしい気持ちになるのだった。  
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