三十五

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三十五

 グル、エルモたちが村で楽しく肩を並べて、食事をしていた日。ファーレズ王城では王妃教育が何ヶ月以上たってもまったく進まず。いまだエルドラッドと結婚式を挙げれていない。  そのため周りから文句がて始める。ついに婚約者のエルドラッドからも文句を言われてしまい、リリアは大泣きして自室に篭るようになった。しかし――この日の彼女は自室で、何やらほくそ笑んでいた。  リリアは人を雇い、あるものを入手したのだ。 「フフフ、多額だったけど。ついに悪役令嬢が使用するはずだった"毒草"を手に入れたわ。あとは、これらをすりつぶして……最後にアレをいれれば完成する」  乙女ゲームの終盤のように、これを使い王都中を病気にしたあと。私がさっそうと出てゆき、ヒロインの力――聖女の力でみんなを治すの。そうすれば国王陛下と王妃、エルドラッドだって私を見なおすわ。 『僕にはリリアしかいない結婚しよう』  一流のドレスとアクセサリーを身に付けて、国民たちに祝福されエルドラッドと結婚する。そして、王妃になり贅沢三昧するの。そうなるためには罪をかぶる悪役令嬢エルモが必要ね。高いお金を払っているし、はやく見つけてくれないかしら。 (どうせ、エルモは悪役で私の引き立て役なんだから、消えちゃってもいいの――そのためだけに生まれたんだから)  あと、アレも必要! 「計画は完ぺき、すべて私のものになるの」 ☆  チェリチタの木に花が咲いてから、エルモの魔力がグゥーーンと上がったとグルは言った。しかし、当の本人は学園で魔力測定はあったものの、授業で基本を習っただけ。魔法は使ったことがなく――なじみがない。  わからないと首を傾げるエルモに。 「そっか」  と、答えたが。魔力をつねに扱うグルは気付いていた。エルモがつくる料理を食べたあと――採取などでできたすり傷、転移魔法を使ったあとの魔力の回復――あげたらキリがない。  それはエルモのバイト先でもそのようで。エルモがいるだけで良い気が流れて、まえ以上に客が増え完売する時間がはやい。  ――午前中に売り切れたときもあった。  いま街でも噂にもなっている。そこのパンを食べると腰痛、肩こり、膝の痛みがなくなる――火傷のあと、切り傷がきれいに治ったとか。先日。エルモに手伝ってもらった、ポーションの回復量が増えたとも言われた。  そのことに関して嫌味な男――アルベルトがうすうす勘付いているかもしれない。いまは店の前で待っているから、手だしはさせないけど……目を離したすきに攫われてしまいそうだ。    いま、キッチンで夕飯のポトフを作るエルモに聞く。 「エルモ、体に変化とかはないのか?」 「ええ、体の変化? べつになにもないけど……あ、グルさんと一緒に寝るようになってから、たくさん眠れて調子がいいぐらい?」 「お、おお、そうか……それは、俺もだな」  エルモは言う。嫌な夢をみて、とちゃうて目覚めることはなくなり、一度眠れば朝までグッスリねむれると。  夕飯のとき呼んだ火の精霊たちが――白ちゃん、黒ちゃん以外に、エルモちゃん大精霊様に好かれた? と、おしゃべりしていた。
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