三十六

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三十六

 夕飯のときに呼んだ火の精霊たちは、エルモが大精霊様に好かれたという――その火の精霊にグルは聞いた。 「大精霊様にエルモが好かれたのか?……ん、それって、大精霊シルワ様が森に戻ってきているのか?」  精霊たちはグルの周りを飛びまわり。 「うん、白ちゃんのがんばりと、フェリチタの木に花が咲いてから精霊の森に戻ってきてるよ」 「まだ、姿はみせないって」 「そういってたよ!」    そうかと、グルは頷き。 「二度と戻らない! といっていたシルワ様が森に戻ってきているのか……マジか、よかった」 「グルさん、よかったね。フェリチタの木に花が咲きほこり、大精霊様が森に戻ってきた……とても素敵だね!」 (グルとグレ、この話を聞いておばちゃん、村のみんなが喜ぶ姿はみたい。でも、大精霊様に好かれたといわれても、ピンとはこないかな?)  できあがった、ポトフ鍋を魔法コンロの上に置き、もらったパンを焼き、レタスとベビーリーフのちぎりサラダにとりかかる。グルは手伝うよと手を洗い、横にならびレタスをちぎりはじめ。   「……エルモのおかげだな」 「え、おかげ? 何もしていないのだけど。ただ、私はグルさんを好きになっただけ……だし」  ヘヘッと照れ笑いをするエルモをみて、火の精霊はポッと頬に火がつき"キャー、キャー、黒ちゃんが好きだって!"と騒ぐ。グルは大いに照れて、レタスをひと玉ちぎってしまった。  大皿に山盛りのちぎりサラダ。 「ご、ごめん」 「レタス好きだから、たくさん食べれるわ」  二人で仲良く食べきった。   ☆  アルベルトが所属する騎士団が遠征にでて、来なくなったのはいいのだけど。さいきん、バイト先のパン屋に不思議な人がくる。シャツとスラックス、緑の長い髪とエメラルド色の瞳、顔はイケメンで身長は高いから、女性のお客はみんな彼をみて頬をそめる。    カッコいい。素敵。との声も聞こえた。   「エルモちゃん。メロンパンさん、また来てるね」 「はい、焼きたてのメロンパンを待っているんですよね」   「「ねぇ」」    サクサクのクッキーとフワフワなメロンパン。    そのお客はメロンパンがそうとう好きらしく、十二時に焼きあがる。それをもとめて早くから店にきて待つ。他のお客も待つことはあるのだけど、この人はオープン前から来て待っている。 「おーい、メロンパンが焼きあがったぞ!」 「はーい! 焼き立てのメロンパンです!」  その人はすぐにトレーをもち、焼き立てのメロンパンを毎日十個買って。やさしげな瞳でエルモをみて、三つ置いていくのだ。そのことをグルに伝えて、見に来たのだけど。  ――みたとたんに。ああ、と、うなずき。 『あの方は大丈夫。エルモ、嫌がらずにもらってやって』  といった。  美味しいからいいのだけど、お金とか体重が……三キロふえてしまい、ヤバいのだ。
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