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四
学年が進み、二年になってからは。
『貴様は僕のリリアになんて事をする!』
『僕のリリアに意地悪をするな!』
と身に覚えのない暴言の数を吐かれるようになった。ハッキリ言って、エルモはリリアと面と向かって言葉を交わしたことがない。
彼女を守るナイト気取りの攻略者達がいて、エルモを近付けない様にしているくせに。
(私にいじめられたとか、よく調べませず。デタラメなことが言えるわ……すべて、リリアがついた真っ赤なウソなのに)
最初のころは「私はやっておりません」「違います」と、訴えていたけど………誰も、話を聞いてもくれず。
『嘘をつくな!』『お前がやったんだ!』『卑しい奴め』など、色々と言われていくうちに、心は疲れてしまい彼のそばから離れた。
両親にうるさく言われたけど。いまは、学問に集中したいと王妃教育のお休みをもらった。
ひとりで過ごす時間が増え、行動範囲が広がったお陰か学園で親しい友人が出来た。
『エルモ様はいつも素敵ね』
『あら、急に何を言い出すの?』
授業がない日はその子達と学園のテラスで、楽しいひと時の時間を過ごした。
『エルモ様、アメリヤさんはいつもあなたの話ばかりよ』
『ちょっと、なにをいうのですか!』
『あら、そんなに嬉しい事をおっしゃらないで、顔がにやけてしまいますわ』
彼女たちは乙女ゲームの上でヒロインに婚約者を奪われ、悪役令嬢エルモの取り巻きになる令嬢達。エルモはそんな彼女たちとヒロインを憎んだり、恨んだりしたくなく、楽しい話をしたかった。
(恨み言は表情などを暗くしてしまうもの)
実際。彼女達の婚約者はリリアとの噂が絶えない。いまは無理かもしれないけど、彼女達には私のように泣かず、幸せな日々を送って欲しい。
私にできることがあれば、なんでもする。
学年も三年、乙女ゲームも終盤を迎える。
ーーおかしい。
リリアは出会った頃に子供の話をしていたし、王子ルートを選んだはずだ。なのに幼い頃に助けたはずの、白いトラの精霊獣がそばにいない。
不思議に思い。
王子と白いトラが出会うイベントの場面を、こっそり見に行ったのだけど、そのイベントは起こらなかった。
そうなれば、エルモに手を貸す黒いトラの精霊獣も表れない。このまま学園の終わりまで物語が進み、最後に婚約破棄を受け入れて、エルモだけがここから去ればいい。
毎日学園で友人と楽しく過ごせた。
友達の評判が落ちず、彼女たちの婚約者の評判が落ちただけ。みんなのおかげで二人を見ても笑顔で過ごせた。
なにより、悪役令嬢エルモが起こすはずだった。最悪のバッドイベントーー『熱病』が起きなかったのだ。
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