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三十七
ゴリ、ゴリ何かをすり潰す音がしていた。部屋のなかはうす暗くロウソクの明かりだけ。あ、ああ、憎い――ソソル草、モンリス草と、…………獣の血。これらすべて混ぜ合わせればできる。
黒いすすけたローブを着て――目つきは鋭く、頬はそげ、目の下にはクマ、悪役令嬢エルモはブツブツと恨みごとを呟く。
『私がこうなったのは……すべてを奪ったあの子のせい。お前が愛するもの、すべて呪ってやる――フフ、いきましょうティーグル」
グルルル、黒い精霊獣を従えて。
――やめて、ダメよ! それを使用しては……!
「……っ、くっ……あ、あ……」
「……ルモ、エルモ!」
誰かによばれて、体を揺すられて目が覚める。
うす暗いロウソクの部屋ではなく……いつもの見慣れた天井と、そばにグルがいた。
彼はエルモのひたいの汗を拭き、心配そうに見つめていた。
「はっ、え、……グルさん?」
「いま、うなされていたけど、怖い夢でもみたのか?」
夢? そうあれは夢だ。乙女ゲーム――白い精霊獣ルートの場面のひとつ。愛したエルドラッドに裏切られて、闇堕ちしたエルモが作った熱病のクスリ。
じっさいは友達ができて、楽しい学園生活を送り。薬を作る必要はなかったから、そのイベントも起こらず、平和に学園を卒業して半年以上は経つ。
いまになって、こんな夢を見るなんて……なにかの前兆?
「エルモ? どこか具合が悪いのか?」
「え、大丈夫。ただ怖い夢をみて驚いちゃって……平気だよ」
心配そうに隣で見つめる、グルに微笑んだ。
「それならいいけど。今夜の満月の宴――体調が悪かったら、無理せず俺にいうんだぞ」
コクンと頷く。
「うん、わかった……ふ、ふわぁ、まだ五時だね。今日はバイトも休みだし。もう、すこしだけ寝ようかな?」
「おお、寝よう。エルモが怖い夢をみたら俺が起こしてやるから、安心しろ」
チュッと頬にキスされて、守るように、優しく腕のなかに抱きしめられた。
「グルさん、ありがとう」
「おう」
グルにすり寄り眠る――幸せ。
それなのに。人々を苦しめる怖いクスリを作ろうだなんて、思わない。
☆
エルモはこのあと夢見ることなく、二人は朝寝坊していた。そこに唐揚げとカツの味が忘れれない、グレが玄関を元気よく開けた。
時刻的に、二人は起きているとおもって。
「おっはよー! エルモちゃん、グル! 唐揚げとカツ作ろうぜ! ……って。お前ら、まだ、寝ていたのか?」
「ん、寝てた。ふわぁ……おはよう、兄貴」
「おはよう、グレちゃん」
まだ眠そうで、寝癖の二人。
時計の針は十時を過ぎていた。
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