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アルベルト
クソッ――エルモに意地悪をするためにきたのにパン屋は休みだった。アルベルトはモンスター討伐の遠征が終わり、久しぶりに王都に戻ってきた。
その足でエルモに会いにバイト先の街までやってきたのだ。
「……チッ、パン屋が休みなら仕方ねぇか、また明日にでも来るかな」
騎士団の寮に戻る前にアルベルトは思い出す。そういや、寮に戻っとき寮長にもらった手紙があったな。
差出人はリリアちゃんか。
アルベルトは壁に寄りかかり、手紙を開き内容を読んた。リリアからの手紙にアルベルトは眉をひそめる。
「おいおい、リリアちゃん……白と黒の精霊獣か、なんでもいいモンスターの血が欲しいとか……不気味だな」
だが、リリアに血を渡せば近衛騎士として、雇ってもいいと書いてある。アルベルトは口うるさい父と、できのよい兄貴から離れてたかった。だから遠く離れたファーレズ国の貴族との婚約を受けたのだ。
学園でリリアにうつつを抜かして、婚約者から婚約破棄されなければ、いまごろ伯爵家の当主になっていた――後悔先に立たずだな。
魔物の血か……討伐した魔物は魔導師達が回収してしまった。他の魔物を狩らなくてはならない。しかたがない寮の書庫で地図でもみるか。
帰ろうとした俺を誰かが呼び止めた。
「あ、アルベルト様。こんなところで、なにをしているのですか?」
「ん?」
振り向くと、同じ騎士団に所属する平民出身のヨリが、手にたくさんの袋を持っていた。明日は休みだから街に買い物にきたのか。
「なんだ、ヨリか。パン屋に来たが休みだったんで、帰ろうとしたところ」
「ああ、ここにアルベルト様の気になる子がいらっしゃるんでしたっけ? 可愛い方ですか? こんど僕にも紹介してください」
「紹介って……お前、婚約者がいるって言っていなかったか?」
「ええ、婚約者はいますが。とても小さな村でして、まわりに何もありませんし。せっかくサーティーア騎士団に入って幼馴染と結婚は夢がありません」
「そうか……」
クックク、そんな高望みすると……俺のようにその幼馴染も逃すのになぁ――まあ、教えてないけど。
(こいつの出身は小さな村で、近くに精霊の森と呼ばれる森があるとか言っていたな。どうせ嘘だろうと思って聞いていなかったけど……)
リリアちゃんが求める白い精霊獣か魔物がいたりして、物は試しだ聞いてみるか。
「なあ、ヨリ。精霊の森を知っている?」
「精霊の森ですか? 知っていますよ」
「ほんとうか! 場所はどこだ?」
「僕の村の近くにある森ですけど……精霊の森といいますが、何もない普通の森ですよ」
「いいんだ、その森の場所を教えてくれ!」
ラッキー! この国を出るチャンスが巡ってきた。
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