1041人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
四十
下味をつけたカツと唐揚げを揚げて、みんなは持ってきたものを広げて満月の宴が始まる。いや、まだ夕方なのだけど。グルとエルモの婚約の祝いだと、おばちゃんが酒を振る舞いだした。
「グル、エルモちゃん幸せになるんだよ」
「おばちゃん、婚約したばっかりだって!」
「「いやぁ、めでたいなぁ! 酒がうまい!」」
もう結婚した勢いの全力で祝ってくる。どうしてたがわかっている。フェリチタの木に花が咲いたから……住みなれた、この村に戻れるとみんなはわかったから。
「グフフ、チタ! めでてぇ〜弟が婚約したぞ!」
一番大喜びはグレ、お酒がまわりチタちゃんと手を取って踊っていた。その近くで手拍子をするのはメロンパンさん? いつもパン屋にメロンパンだけを、大量に買いに来るお兄さんがいた。
おばちゃんはメロンパンさんをみて。
「これは! 大精霊シルワ様……ワシらの村に帰ってきてくださったのですね。おかえりなさいませ」
おばちゃんの一言でみんなはお酒を飲むのをやめて、メロンパンさんに頭を下げた。それはグルとグレ、チタもだ。エルモはまわりを見渡して、揚げ物をしながらみんなの真似をした。
(嘘っ、メロンパンさんって――大精霊シルワ様だったの? 乙女ゲームては話だけしかでてこなかったけど……精霊の森の守り神よね。私、失礼なことばかりしたかも)
「そんなに、かしこまらなくていいよ」
シルワと呼ばれた大精霊はシャツとスラックスの姿ではなく、黒のスーツ姿にマントを羽織っていた。
彼はみんなに片手を上げて。
「みんな、久しぶりだね。グル、エルモさん、婚約おめでとう。二人の愛の力が木に生命力を与えて花を咲かせた。愛は素晴らしいねぇ……ところで、グル。いま魔力を使っても、体は辛くないんじゃないかな?」
そのシルワの言葉にハッとしたグル。
袖をまくり腕を確認したり、足を確認、自分の体を隅々見回した。
「ほんとうだ……転移魔法でみんなを精霊の森と村に運んでも、体に黒いアザができていない」
「それは、ほんとうなのかグル」
それにグレも驚く。
「フフッ、私のケンゾクにしたのもあるけど……よほどエルモちゃんとの、魔力の相性が良かったみたいだね。ほとんど闇の力は抑えられちゃってるよ」
「ハァ? エルモがシルワ様のケンゾク? 俺と一緒?」
「グルが好きになった子が気になって会いにいった。会ってみると、彼女の魔力はとても澄んでいて、みんなを思いやる心、グルを愛する気持ち……いずれ私の後を継ぐグルとグレにとって、エルモさんはなくてはならない存在だと感じたからね」
――私が?
「だからって、エルモに話もせず。無断でケンゾクにするなんて……」
「だって、グルがいなかったら。私のお嫁さんにしようと思ったくらい」
「「はぁ!」」
「ダメだ。いくらシルワ様だって、エルモはやらん!」
焦ったグルにグイッと引っ張られて、シルワから離される。それを余裕げに微笑むシルワ。
「フフ、冗談じゃないからね。隙があれば奪ってしまうよ」
村のみんなに祝福の声から「がんばれ」「とられるなよ!」などの激励の言葉に変わる。
「あたりまえだ!」
陽が暮れて。夜空に満月がのぼり、みんなの姿を獣人の変えていく。グルも精霊獣の姿にかわったから、エルモもグルにもらった指輪をさわった。
最初のコメントを投稿しよう!