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四十二
宴のみんなに気付かれず森に隠れた村。シルワは森に訪れた人の目的がわかっていた。それは一ヵ月前――他の森の大精霊に警告を受けたのだ。
「人間が知ることがない。ソソル草とモンリス草――毒草をもとめた者がいる……黒き精霊獣の血を守らなくてはならない」
黒き精霊獣とはグルのこと、彼は珍しい闇の力を持つ。いまはシルワのケンゾクとなり、愛するエルモがいて、その力は抑えられている。いい状態……
力がひとたび暴走すれば、グルは魔王となり、人間たちに災いをもたらすだろう。そうなればいまのように、ここでの暮らしはできなくなる。
――エルモちゃんとも別れなくてはならない。
宴の二日前。シルワはグレだけを呼び、そのことを伝えた。闇の力を持つグルとは違い、グレの血は光の力を授かっているため、毒草に触れて浄化することができる。
しかし――その力を使うにはグレにも愛するものが、いなければならない。
「オレに愛するもの?」
「そうです……グレ。昔のことを蒸し返すようなことを言って、すみません」
グレに愛する人がいなければ、シルワは毒草を持つものに、ちょくせつ手を下そうと考えている。それは大精霊としての地位がなくなることを意味する。
それでもいい。
シルワにとって、みんなは大切な仲間だ。
「ですから、私が……」
"行きます"と言う前に。
「シルワ様、オレは昔のことは気にしていない。その、最近だけど好きな人もできたよ……オレの力が役に立つのなら使う! グル、エルモちゃんを守りたい」
笑いながら言うグレ。
「ありがとう、グレ。加護魔法、防御魔法……転移魔法を授けます。毒草を見つけたら浄化して戻ってきなさい」
「わかりました。必ず見つけて浄化してきます」
シルワはグレにたくして、ありったけの魔法をかけた。
満月の宴も中盤。
早くからお酒を飲み騒ぐ村のみんなと、楽しく酒を飲んでいたグルだが。ひときわ騒がしいグレの姿がないことに気付く……
胸騒ぎがしてシルワを探した。
「シルワ様、グレはどこに行ったのですか?」
「グレですか? グレにはある役目を託しました」
「え?」
「グル、愛するエルモちゃんを守りなさい。魔法をつかい、グレのあとは追わないように……絶対ですよ」
いつになく真剣なシルワに、グルは何も言えなくなった。
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