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四十三
シルワとグルが話しはじめる数分前。
精霊の森の奥でグレは侵入者を見つけ、前に立ち塞がった。
「ギャオーーン!」
「ウオッ、な、なんだ? はあ? おい、おい、驚かすなよ……子供のモンスターかよ? ビビって損したぁ」
これより先は木々が生い茂り、行き止まりの場所で――足もとにいきなり現れた、小さな白いトラにむけて人間は剣を抜く。
「グルルルルッ」
「おお、一丁前に威嚇かぁ? しっかし、弱そうなモンスター。お前、ちかくに親はいないのか?」
「ガオ――ン!」
いまグレがいる場所は村の手前。
これ以上、進ませないよう侵入者を威嚇した。しかし――みためが小さいからか侵入者は威嚇に怯えず、ニヤッと笑った。
――クソッ"弱そうだ"と見下しやがって!
「ギャオーーン」
「ケッ、そんな威嚇きかねぇよ。ん――? もしかして、コイツが? リリアが連れて来いと言っていた白い精霊獣なのか? ……近くに黒はいないみたいだな」
――リリア、白い精霊獣? 黒?
どうやら、こいつはオレと弟のことも知っているようだな。そして――リリアといったな。コイツはオレを裏切った女の手先なのか? いや、別人かもしれない。
「ガオオオォ――ン!」
「はい、はい。手紙に黒か白って書いてあったな。森の中にこいつ以外、モンスターはいないし。こいつの血をリリアに渡せばいいのか?」
――オレの血をリリアに渡す?
奴が懐からだした手紙と一緒に懐かしい匂いがした。この匂いを知っている……あの子の匂いだ。
マジか、さっきシルワ様の話に出てきた人間とは、リリアのことだったんだな。
リリアはなぜ?
毒草を手に入れた?
「おい、人間! そいつは何をしようとしている!」
「ん? お前、言葉が話せるのか? へぇ面白い。違っていても、珍しいもの好きな貴族に高く売れるな……捕まえるか」
――し、しまった。
「ニヒヒ、どうやって捕まえるかな?」
「そう簡単に捕まるかよ!」
グレとアルベルトが村の外で対峙している。
双子のグルはそれがわかり、飛んでいきたかった。だけど、アイツはエルモを狙っていることを知っている。
――この、一瞬の隙が命取りになる。
大精霊シルワはグレにありったけの魔法をかけた、といっていた。アニキだってバカじゃない、危なくなったら逃げてくるだろう。
捕まったのがエルモだったら……二度と会えないような気がする。どこか手の届かない、遠いところにいってしまいそうで、グルは怖かった。
「グルさん?」
心配そうに見つめるエルモに、鼻でスリスリして大丈夫だと伝えた。だけど、エルモは俺の首に抱きつき。
「行ってきて、私はここでみんなといるから……心配なんでしょう?」
そう言ってくれたけど、グルは首を振る。
「いやいかない、俺はエルモのそばにいる。グレのことは心配しなくていい……兄貴は強い」
――そう、俺よりも強いんだ!
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