四十三

1/1

1040人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ

四十三

 シルワとグルが話しはじめる数分前。  精霊の森の奥でグレは侵入者を見つけ、前に立ち塞がった。 「ギャオーーン!」   「ウオッ、な、なんだ? はあ? おい、おい、驚かすなよ……子供のモンスターかよ? ビビって損したぁ」  これより先は木々が生い茂り、行き止まりの場所で――足もとにいきなり現れた、小さな白いトラにむけて人間は剣を抜く。 「グルルルルッ」   「おお、一丁前に威嚇かぁ? しっかし、弱そうなモンスター。お前、ちかくに親はいないのか?」 「ガオ――ン!」    いまグレがいる場所は村の手前。  これ以上、進ませないよう侵入者を威嚇した。しかし――みためが小さいからか侵入者は威嚇に怯えず、ニヤッと笑った。  ――クソッ"弱そうだ"と見下しやがって! 「ギャオーーン」 「ケッ、そんな威嚇きかねぇよ。ん――? もしかして、コイツが? リリアが連れて来いと言っていた白い精霊獣なのか? ……近くに黒はいないみたいだな」  ――リリア、白い精霊獣? 黒?  どうやら、こいつはオレと弟のことも知っているようだな。そして――リリアといったな。コイツはオレを裏切った女の手先なのか? いや、別人かもしれない。 「ガオオオォ――ン!」 「はい、はい。手紙に黒か白って書いてあったな。森の中にこいつ以外、モンスターはいないし。こいつの血をリリアに渡せばいいのか?」  ――オレの血をリリアに渡す?  奴が懐からだした手紙と一緒に懐かしい匂いがした。この匂いを知っている……あの子の匂いだ。  マジか、さっきシルワ様の話に出てきた人間とは、リリアのことだったんだな。  リリアはなぜ?  毒草を手に入れた? 「おい、人間! そいつは何をしようとしている!」 「ん? お前、言葉が話せるのか? へぇ面白い。違っていても、珍しいもの好きな貴族に高く売れるな……捕まえるか」  ――し、しまった。 「ニヒヒ、どうやって捕まえるかな?」 「そう簡単に捕まるかよ!」    グレとアルベルトが村の外で対峙している。  双子のグルはそれがわかり、飛んでいきたかった。だけど、アイツはエルモを狙っていることを知っている。  ――この、一瞬の隙が命取りになる。  大精霊シルワはグレにありったけの魔法をかけた、といっていた。アニキだってバカじゃない、危なくなったら逃げてくるだろう。  捕まったのがエルモだったら……二度と会えないような気がする。どこか手の届かない、遠いところにいってしまいそうで、グルは怖かった。 「グルさん?」  心配そうに見つめるエルモに、鼻でスリスリして大丈夫だと伝えた。だけど、エルモは俺の首に抱きつき。 「行ってきて、私はここでみんなといるから……心配なんでしょう?」  そう言ってくれたけど、グルは首を振る。 「いやいかない、俺はエルモのそばにいる。グレのことは心配しなくていい……兄貴は強い」    ――そう、俺よりも強いんだ!  
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1040人が本棚に入れています
本棚に追加