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四十五
日が暮れて暗闇の中――精霊の森を走り抜け、グレをとりもどそうとするグルの移動ははやく。馬で移動中のアルベルトと、一緒の馬に乗るグレをすぐにみつけた。
「いたっ! エルモしっかり捕まって!」
そういうとグルはいきなり彼らの前に飛びでて、アルベルトたちが乗る馬の行く手を遮った。
「なっ!」
いきなり目の前に現れた黒い精霊獣に驚き、手綱をひくアルベルト。グルはアルベルトには目をくれず、後ろに乗るグレを呼んだ。
「グレ、そいつから離れろ!」
「グル? おい、なんで着いてきた! エルモちゃんまで一緒じゃないか!」
グルの背に乗るエルモをみてグレは声をあげると、同時にアルベルトが悲鳴をあげた。
「ヒィイイ!……こんな往来にモンスターがでたぁ? ……た、た、頼む、殺さないでくれぇ……グエッ」
アルベルトは二人の会話が聞こえないくらいに、グルの大きさに怯えている。――そして、乗っていた馬から落ちガタガタ震え、腰を抜かしているようにみえた。
ガタガタ怯える、アルベルトにグルは近付き。
「大切なグレは返してもらう。お前は今すぐ、ここから消えろ!」
「は、はひぃ……すみませんでしたぁ」
いつもの余裕がなく、アルベルトは乗ってきた馬にまたがり、来た道を慌てながら戻っていった。
それを見送るグルとグレ、エルモ。
三人はこれからいくつかの国境を越えて、毒草を消しにファーレズ国にいかなくてはならない。
「俺が……く、クァ、グション!」
とつじょでたグルのくしゃみに驚き、アルベルトはまた馬から落ちる。そのとき――手綱を離してしまったのか、馬に逃げられて、そのあとを走っていく姿が見えた。
「え――っ。アイツ、グルのくしゃみに驚いて、馬から落ちたぞ?」
「はぁ? ビビリだなぁ……チッ、弱いやつには強いってやつか――なさけねぇ。さんざんエルモに嫌がらせをしたくせに、強いものをみると逃げ腰かよ!」
グルはあきれた声をあげる。
ほんとうだとエルモも思った。あんなに強気なアルベルトが、グルをみて怯えるなんて思っていなかった。
――少し、いい気味だって思っちゃった。
なさけない、アルベルトの姿もみえなくなり、本題にはいる。
「それで、グル。ファーレズまでどうやっていくんだ?」
「うーん。そうだな、いまから朝になるまで俺が全速力で走る。……夜が明けて、元に戻ったら宿屋で休んで馬か荷馬車を買うか」
グルの提案に頷くグレ。
「それがいいな……エルモちゃん、しっかりグルに捕まるんだぞ!」
「はい」
「じゃ、いくぞ!」と。グルは国境を普通に通らず、助走をつけ塀を軽々飛び越えて、ファーレズ国にむけて走りだした。
全速力で走りだしたグルは馬よりも早い。エルモは振り落とされないようにグレと背中に捕まった。
――すごい速さだわ。
「エルモ! 遠慮なく抱きつけ!」
国境を超えたら持ってきた地図を見て確認して、一休みしながら夜通し走り、何個目かの国境を超えた。地図を見ると、あと一つ。……あとひとつ国境を超えたら――ファーレズ国にはいるところまで来ていた。
――帰ってきたんだ。
「兄貴、エルモ、国境を超えてファーレズ国に入ったらやすむ!」
「はい、わかりました!」
グルは国境を飛び越えファーレズ国にはいる。そして――近くにみつけた森で、日が明けるまで寝ることにした。
――その、眠る前にグレは。
「あ、あのさ。グル、エルモちゃん! ……ほんとうはオレ、怖かったんだ。迎えにきてくれて嬉しかった、ありがとう。一緒にファーレズ国まできてくれてありがとう!」
と、胸の内を語る。
「「そんなの、あたりまえだよ!」」
グルとエルモは笑ってこたえた。
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