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五
舞踏会でエルドラッドに婚約破棄をされた、悪役令嬢エルモ・トルッテはーー友達に手紙を書くと約束して屋敷に戻ると。
既に婚約破棄の話を知っていた両親に、トランクケースひとつと、少しのお金を投げつけられて『ニ度と、顔を見せるな!』と勘当された。
自分のことしか考えない人たち。
「………いままで、お世話になりました」
髪をゆい、ワンピースとトランクケースを持って、隣町まで歩き相乗り馬車に乗る。いくつもの馬車を乗り継ぎ、国境を超えて違う国までたどり着いた。
ここは馬車の最終地点。
エルモは馬車を降りて、雲ひとつない青空を見上げた。
「さてと……ここが山間の国サーティーアね」
この先はゲームとは関係のない、穏やかな日々を過ごしたいな。
❀
エルモはサーティーアの王都からは離れた、小さなトトール村で住む所を探した。
トトール村の近くにはギルドがある、大きなカールトンという街もありーー村から歩いて働きにもでられる。
村に着いた直ぐ、トトール村の地主さんの元を訪れて話をした所、何年も前から放置された畑付きの、一軒家の話をしてくれた。
「え、畑付きの一軒家ですか!」
「そうじゃよ。いまから見に行くかえ? しかしよ―、お嬢さん」
地主のおばちゃんの話では、誰もいないその家にたまに人影が見えるとかで、子供達の間ではお化け屋敷と呼ばれる家だと言った。
「おばけやしきですか?」
「んだ、お化けがでる」
元々お化けは信じていないし、もっと怖い者をエルモは見て来た。
――自分の地位と爵位を守るために怒り狂う両親。
――貴族達の偽りだらけの噂話。
――おのれの欲望を叶えるために、虚言ばかりのヒロイン。
攻略対象者達の罵声に罵り、エルドラッドの冷たい声と瞳ーーそれらを見る事も聞く事はもう無い。
「お嬢さん、こっちじゃ」
「は、はい」
地主のおばちゃんの案内で家を見に来たけど、着いたところは丘の上に立つ立派な一軒家の前だった。
屋根と外壁は壊れていないし、見れば見るほど立派な家。ここに"タダ"で住めるなら、お化けが出ても大丈夫だ。
「いま、鍵を開けるからの」
「お願いします」
おばちゃんに鍵を開けてもらい中を見渡した、家のなかも外と同じで、空き家とは思えないくらいに綺麗だ。
(カビ臭くもなく、家具や、必要な物が揃ってる)
ここに住みたいと伝えると、地主のおばちゃんは『ふぉっふおっ』と笑い。
「そうかい気に入ってくれたのかい、お嬢ちゃんがいいのなら……タダでいいよ」
「え?」
(……この家がタダ?)
ちょっと待って、上手い話には裏があると、エルモは一瞬だけ思ったけど、すぐに考えを変えた。何かあったらその時に考えれば良い、いま返事をしておかないとーーこんなに綺麗なタダの家なんて、どこを探しても無いだろう。
「決めました。ここに住みます」
そう言ったエルモに『ああ、いいよ』と、言い。地主のおばちゃんは鍵と、もし何かあったら家においでと言って帰っていった。
家を見上げて、エルモはニンマリした。
着いた早々良いことがあった、からだ。
「いい家を貰った」
と、もう一度中を詳しく見た。
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