1041人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
四十六
抱きついて寝ていたグルがモゾモゾ動き、目が覚める。
「……どこかいくの、グルさん?」
「あ、起こしちゃったか……ごめん。二人が起きる前に、朝飯でも作ろうかなって思って」
「でしたら、私もお手伝いします」
グルのアイテムバッグから、きのうみんなからもらった食べ物と、唐揚げとカツを取りだした。
「果物は切って、唐揚げとカツはフライパンで焼けばいいかな?」
「はい。パンがあれば挟んでサンドイッチにするのも、いいと思います」
「そ、そうだな……」
「…………?」
夜明けともにグルは精霊獣の姿から、いつもの黒髪とグリーンの瞳に戻っていて――彼の魔法で変化していているエルモも、いまは同じ髪と瞳の色だ。
「エルモが俺とお揃い……嬉しいけど、その瞳で見られると照れるな」
「えへへ、そうですね」
二人はなぜか照れでしてしまう。
それをそばで寝っ転がりながら見ていた、グレは大ため息を吐く。
「……お前らはどこにいとも、初々しいなぁ。新婚だから仕方ねぇか――うらやましい!」
――新婚?
「まだ婚約だ!」
「まだ婚約です」
「いや、二人のその雰囲気は、結婚したといってもかわらねぇ」
頷き、なっとくしながら話すグレ。
(グレちゃんがそう言ってくれるのは嬉しい。いつかはグルさんのお嫁さんになりたいもの)
「エルモと結婚か――ゴタゴタが終わって村にかえったら、すぐにエルモと結婚式を挙げたい。二人で採取に出かけて、旅行にいきたい……美味しいものを食べて、古本屋巡り、きれいな花も見たい。行ったことがない海がみたい」
「海? いいですね。私もグルさんと色んなところを見てまわりたいです。あ、グレちゃんも一緒にね!」
令嬢のときは王妃教育のため――王都と屋敷の往復だったから旅行なんて行ったことがない。自由になったのだから、いろんな国を見てまわりたいわ。
そのためにはバイト頑張らなくっちゃ。
「……ほんと、いい子に出会ったな俺達」
「そうだな。幸せにしたいし、一生たいせつにする」
「してやれよ。そしてぜったいに離すなよ!」
「トウッ!」と、グルに飛びつきじゃれるグレ。
仲のよい兄弟をみて、エルモはほっこりした。
「グル、エルモちゃん。そのためにはシルワ様が言っていた毒草を消すぞ!」
「「おう!」」
ちかくの街に移動して荷馬車を一週間借りた。まだファーレズ国の国境近く――王都までは荷馬車で急いでも三日、四日はかかるだろう。
荷馬車の上で地図を広げたグル。
「王都までけっこう遠いな……俺が精霊獣のままか、ファーレズ国の王都に行ったことがあれば、転移魔法が使えたんだけど…… 。こればかりは仕方がないな」
と、荷馬車を動かした。
「グルさんのおかげで、ファーレズ国まですぐに来れたわ。本当ならいくつも国を越えなくてはならなかったから、一週間以上はかかっていたわ」
「夜通し走ってくれたグルのおかげだ。怪我なく移動しようぜ――弱々アルベルトから「リリアの手紙」と「リリアからの招待状」を盗んだんだし、ニシシ」
招待状?
いつのまに?
「だな、王城にその招待状で怪しまれずはいれる、ニシシ」
グレとグルは悪い笑顔をみせた。
最初のコメントを投稿しよう!