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四十七
荷馬車を操縦するグルの隣に座り、エルモは景色を眺めていた。
婚約破棄後はこんなにゆっくりと、景色を見ている余裕がなかった。ここ――ファーレズ国はこんなにも緑豊かな国だったんだと、いまさらながら気付いた。
(もうこの国からはでてしまっているし、いまは婚約者のグルさんのそばにいる――未練はないわ)
エルドラッドのことも、エルモなかでは昔のことになっていた。
「エルモ、なにか考え事?」
荷馬車をあやつりながらグルは隣で景色をみてだまる、エルモが気になり話しかけた。もしかしたらファーレズ国がいいと、グルの側からいなくなる、そんな胸さわぎがしたから。
でも、エルモは笑って。
「こんなにファーレズは綺麗な国だったと。ここにいたときは景色をみる余裕もなかったことに、今更ながら気付いの」
「それで、ファーレズに帰りたくなった?」
スルッと口から本音とは裏腹の言葉がでて、グルは驚く。
それを聞いたエルモが隣でプックリ、頬を膨らませた。
「……なるわけないのに、ひどい」
さっき――エルモと結婚、旅行の話をしていたから、そういわれるのも仕方がない。それでもグルは懐かしそうに景色を眺める、エルモに聞きたくなってしまったのだ。
「ごめん、あまりにも懐かしそうに眺めるから……」
「それは……十八年までファーレズに住んでいたから、懐かしくおもったわ。でも、私の帰る場所はグルさんの腕の中だからね」
言った途端に頬を真っ赤にしたエルモに、グルの頬も熱をもつ。それはエルモの口から聞けたからで、グルはそれだけで舞いあがる。
「うれしい。帰ったらエルモをたくさん、甘やかしてたい」
グルが近寄り頬をすり寄せる。
精霊獣のグルではなくいまのグルにされて、ますます赤くなるエルモを愛おしくなる。
もう一回とグルはエルモに手を伸ばしたが。
荷台から。
「そしたら、村に花が咲きほこるなぁ」
「グ、グレちゃん?」
グッスリ寝ていたはずのグレが顔をだした。
「チエッ、兄貴は聞いていたのかよ」
「聞いていた! 可愛い弟とその嫁のことだからな。仲が良くてなにより!」
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