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四十八
夜は荷馬車て休み、王都までグルは荷馬車を走らせた。エルモはだんだんと周りが見慣れた景色だと、王都までもう少しだと気付く。
村をでてから、指輪をさわり変化はといていた。
しかし、昔の家――公爵家付近まで来たことがわかり、再び指を触った。
いきなり姿をかえたエルモに、グル、グレは心配する。
「エルモちゃん?」
「エルモ、平気か?」
「うん、平気だよ。グルさん、グレちゃん、この付近に昔住んでいた屋敷があるの――あ、あの青い屋根の屋敷が、昔住んでいた家だわ」
指をさして二人に教えると。
二人はその屋敷をみて瞳を大きくした。
「スゲェ、エルモちゃんすごい家に住んでいたんだぁ」
「そうだな、デカい屋敷だ」
「まあ、いちおう公爵令嬢だから……ね」
その家の近くを通るとき懐かしい声が聞こえた。
声の先に視線をおくると――淡い黄色のドレスを身につけたお母様が日傘を差し、知り合いとめずらしく外で立ち話していた。
ファーレズを離れてから数ヶ月以上はたっている。
あの日。エルドラッドに婚約破棄された日――エルモを睨みつけたお母様の"あの瞳"がいまも忘れられない。ギュッっと手を握り下を向いた、エルモの手にグルはやさしく手を重ねた。
「ありがとう、グルさん」
その一言だった――立ち話をしていたお母様が一瞬、こちらを向いたのだ。しかし、いまのエルモは黒い髪を束ね、エメラルド色の瞳の女性で、昔とは違い質素なワンピースを着ている。
自分の娘だと、気付くはずがない。
あなたの娘は婚約破棄後に屋敷を追い出されて、どこかにいってしまったのだ――追い出した本人が、エルモのことなど忘れているに決まっている。
貴族とはそういうも。
家の近くを通りぬけ進むと、行き交う馬車、荷馬車が増え、レンガで舗装された道に変わっていった。
もうすぐ、ファーレズの王都に着く。
「グルさん、グレちゃん。あと二、三時間で王都に着くわ、気を引き締めなくっちゃ」
「そうだな。城にはいり、すばやく毒草をみつけないと」
「いや、みつけなくても毒草はすぐに見つかると思うぞ、グルがアルベルトに変化して、オレを"捕まえた"とあの子のところまで連れていけばいい」
「ゲッ、アルベルト……ものすごく嫌だが、その方法しかないよな。グレはアイツに会うの嫌じゃないのか?」
アイツ、リリアのことね。
「「嫌じゃない」とはいえないけど…………あ、グル、もう一つあるぞ……エルモちゃんを連れてきたって伝えて城にはいる。おまえの大、大、大嫌いな男に会うことになるけどな」
「それでいいんじゃないか? エルモを傷付けたやつにお灸を据えてやる」
グルさんは、そんなにエルドラッドに会いたいの?
みんなで王城への入り方を決めているうちに、王都の門が遠くにみえてきた。
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