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五十二
ピンクの髪をなびかせ、可憐に笑っていたリリア。彼女のみためもだけど……側近、執事をするイケメンな男性はゲームの攻略対象ではなく、エルモの知らない人たちだった。
「お久しぶです、リリア様」
エルモは、アルベルトらしく深々――彼女に騎士の挨拶をした。
「かたっ苦しい挨拶なんていいわ、頼んでいたものは連れてきたの? カイ、次はイチゴケーキをちょうだい」
「かしこまりました、リリア様」
挨拶もなしに本題にはいり、遠くからきたアルベルト――私達にねぎらいの言葉はなかった。エルモの胸元にいるグレと、後ろのグルが、リリアに対し険悪な雰囲気をかもしだす。
「リリア様、探しておられた白いトラです」
胸に抱くグレちゃんを見せると、リリアはいちべつして眉をひそめた。
「え、白トラ? ……どこにいるのよ? どこにもいないじゃない」
「いいえ、僕の胸元にいますが? リリア様はお見えにならないのですか?」
すこし意地悪くいっても、リリアは気にせずケーキを食べながら。
「みえない……ねえ、あなた達は見える?」
彼女の側近たちにきく。 "いいえ"と、男性たちは首を振った。それを聞いて、リリアはアルベルト――エルモにあきれた瞳をむけ。
「フフ、アルベルトったらあたしに会いたくて嘘をついたの? うけるぅ。あなたの顔タイプじゃないって、いったじゃない……あきらめの悪い人だね
「…………」
リリアは会わないうちに、更にひどい人になったようだ……本物のアルベルトがリリアに会いたくてここに来ていたら、その言い方では彼を傷付ける。
本物のアルベルトじゃないけど、ムカついてわ。
〈ハァ……この子は昔も今も平気で人を傷付ける、ひどい子だな。グル、エルモちゃん、この部屋の中には毒草はないみたい〉
グレがグルと私だけに向けて話しかけた。この部屋にないとなると、ちがう部屋を探さなくてはならない。
ないのなら、ここにいる必要がない。
リリアに帰ると言う前に、グルが一歩前にでる。
「アルベルト、せっかく白トラを連れてきたが……依頼主が見えないのなら、ここにいても時間の無駄だ――帰るぞ」
「そうだね、見えないのなら仕方がない。リリア様、失礼いたします」
部屋をでようと、背を向け扉を開けた。
「ちょっと待ちなさい。そのローブの男……声ゲームのなかで聞いたことがあるわ。黒い精霊獣のグルね」
「なっ!」
――どうして? ゲームではグルは"ティーグル"としか呼ばれていない。それなのに、リリアはグルと呼んだ。
「ふぅん、そうか、そうか、リリアわかっちゃった。グルがここにきたのは――あたしの聖女の力が必要になったのでしょう? ねえ、そうでしょう? それっきゃない!」
ひとさし指を前にだして、瞳を輝かせるリリアに困惑する。たしかにリリアには癒しの力はあった。
だけど、悪役令嬢が起こす熱病を止めたのはグレちゃんとリリア――二人の力でだ。
――リリア、一人の力ではない。
そして、悪役令嬢と一緒にいたグルは最後、一緒に姿を消して終わりのはず。
〈グル、エルモちゃん、この部屋をでて左側の寝屋に毒草があるかも〉
わかったと頷く。
「グル、行こう」
手をひこうとしたとき、グルは口に何かを含みかじった。
「あーあ、お、俺はグレを――兄貴を傷付けたおまえを許さないし、二度と会うことはない!」
ファーレズ国の言語を話して、睨みつけたグル。しかしーーリリアは余裕げに。
「あら? そんなと言っちゃっていいの? あたしのそばを離れると、グルは黒い力に飲み込まれちゃうぞ。あたしにはそれを癒す力があるんだよ」
黒い力と聞き、グルは足をとめてリリアの方を向く。彼女は嬉しそうに、グルの手を取ろうとしたがかわされた。
「おまえにそんな力はない。その力があるのは嫁のエルモだ」
「嫁? エルモ? アハっ、エルモなんかにそんな力はない、ない。力があるのはヒロインのあたしよ!」
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