五十三

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五十三

 グルはため息をついた。 「君にはハッキリ言わないと伝わらないみたいだな。君が白トラを助けようとしたとき、その森に住む白トラの友達の精霊が一緒に力を貸したんだ……それを君は自分の力だと思った」  ――え? 「そんなの、嘘よ」 「嘘ではない。あの日の。君の行いに感謝した大精霊シルワ様は力を君に与えた……だが、白トラの心からの告白を君は冷たく断った。白トラはシルワ様のケンゾク――シルワ様は家族を傷付けられ怒り。そのことを知った、この国の森から精霊が消えてしまった……俺たちの村も君のせいで、とばっちりを受けた」 「たかが、告白を断ったくらいで?」  リリアのその言い方にグルの眉がビクッと揺れ、部屋の温度がさがる。 (グルさん、怒ってる) 〈やばい、グルがキレる。エルモちゃん、部屋の温度が下がったらグルを止めてやって……止めないとグルが闇の力にのまれる〉  闇の力?  ギリッと、音が出るくらいに手を握るグル。  みたことがない怒りに満ちた、彼の体から黒い霧が漏れでているのがみえた。 「だったら、君は兄貴からの好意をなぜ返した! 鼻を擦り合わせの挨拶、頬すりは俺たちにとって愛情表現だ――君は兄貴となんどもしたよな」 「そんな、愛情表現だなんて知らないわ」 「はあ? 知らない? 好意がないのなら"やめなさい"と、ばっちゃんが何度も君に忠告しただろう!」  ひときわ黒い霧がみえて、私は手を伸ばして彼を後ろから抱きしめた。   「だめ、グル……やめて」 「……エ、エルモ、…………う」  ――うっ? 「ウゲッ、その声……アルベルトの姿で抱きつくなよ。エルモのいい香りはするけど……体が、柔らかくない」   「な、何をいうのグル。もう、男になっているんだから仕方がないでしょう! いま、そんなこと言わないの」 「そうだけど。ごめん、我慢できない……怒りの感情がおさまらない、エルモに抱きしめられたい」  こ、こんなところでワガママァ? 「ちょっ、ダメ。やめて、グル」  術を解かないでという前に、グルはエルモにかけた術を解いてしまう。アルベルトからエルモに変わり、ブカブカになるグルの服――グレちゃんをおろして、慌てて、おちそうなスラックスを両手で掴んだ。 「エルモ!」 「グル、そんなにスリスリしてきたら、スラックス落ちちゃうって……!」 〈……エルモちゃん、我慢してやってくれ〉  ――わかるけど、はっ、はげしい!    とつじょ、アルベルトからエルモに姿が変わり、目をパチクさせるリリアだったけど、すぐに睨んできた。 「エルモ、姿を変えているなんて卑怯。あなたが自分の役割をやらずに消えるから……私、自らやらないといけないじゃない」  それって、熱病のことを言いたい。 「……リリア様、好きな人があなたを好きだと言ってくださるのに……あなたは、それ以上に何を求めているのですか?」  好きな人を手に入れるために、学生時代。たくさんの人を傷付けたクセに。 「ハハッ、決まってるじゃない富と名誉よ!」 「富と名誉? そんなもののために、あなたはこの国の国民を犠牲にしようとしているの?」 「エルモのくせに、うるさい、うるさい……お前なんて消えてなくなれぇ!」  リリアは書斎から何かを握るとエルモたちに向けて投げつけた。エルモはとっさにグルを押し退け、その中の液体をかぶってしまう。  きょうれつな悪臭が部屋中を満たす。 「きゃぁー、熱い、痛い…………あぁあ!!」   「エルモ!」 〈エルモちゃん!〉  二人があわてて駆け寄る、その姿を見てリリアは笑いほうけた。 「ハハッ、もうその痕は治らない……醜いエルモ。ハハハッ、いい気味よ」  リリアはみせつけるように己の手袋を取ると、手はエルモと同じで、紫色に染まりただれている。  ――まさかリリア、あの毒草を手ですりつぶしたの? 「エルモ、いま魔法で治してやるから」 「エルモちゃん」 「グル、グレちゃん……」  三人が手を取り合ったとき、まばゆい光が三人をおおった。
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