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五十四
焼けるような痛みが身体中に広がる。そうだ熱病になる毒草を二種もリリアは混ぜて作ったのだ……。
「エルモ、バカァ〜。ハハハッ、うけるぅ〜」
リリアの狂気に満ちた笑い声が聞こえた。彼女は見せつけるようにオペラグローブを脱ぐと、その手は毒に侵されていた。
「グル、グレ、私から離れて」
そう言って二人を離れさせようとした……のに。
彼らは離れるどころか駆けより体に触れた。自分達だって触れは毒をうけてしまう。それなのに二人は躊躇せずふれたのだ。
「やだ、触らないで! グル、グレちゃん!」
「うるさい! 俺はぜってぇエルモから離れない。治れ、治ってくれ……!」
「治ってくれよ、エルモちゃん。オレ達はまだ、キミと別れたくない!」
「グル、グレちゃん……」
三人の手が同時に毒に触れたとき……シルワ様のあきれた声が聞こえた「まったく、私のケンゾクは無茶しすぎです」と、まばゆい光に包まれた。
その光りが消えたとき痛みは消え去り、肌は元に戻っていた。
「え、嘘……治ってる?」
「エルモ、よかった」
「ハァ――、よかった」
と、二人同時に抱きついてきた。
その様子をみていたリリアはギリッと、音が聞こえるくらい歯を食いしばる。
「なんで、なんで、エルモがその聖女の力を使えるの?……その力は私のなの。私の力なの! あなたはどうせ頑張ってもあたしになれない! エルドラッドだって、あなたの元には帰らない!」
あんなに、ただれていたリリアの手も綺麗に治っていた……それが、ますます彼女を苛立たせたようだ。
「私は誰にでも愛されるヒロイン……欲しいものはなんでも手に入るの……」
「…………」
――ああ、そうか。
彼女はまだ乙女ゲームの中から抜け出せないでいる。学生のとき、笑顔を振りまけば人が寄ってくる、泣いて頼めば周りが助けてくれる。
それはもう終わったの。
あなたはエルドラッドを選んだ、皇太子妃、王妃になるための、準備を始めなくてはならない。
――だって、選んだのはあなただ。
毒草をまいて、熱病を治して、簡単に地位を確定しようと思ったのだろうけど。
それはさせない。
血反吐を吐くぐらい厳しい、王妃教育をうけなさい。
「フン、エルドラッドだっけ? エルモはそんな奴のこと忘れたぞ。俺たちは国に戻って幸せになるだけだ。おまえだって好きな相手がいるのなら、大切にすればいいだろう?」
〈そうそう。毒草なんかに頼らずにね〉
「リリア様、私は普通のエルモです。旦那様とサーティーアで普通の暮らしができてばいいの。リリア様も前を向いて自分の道を歩いてください」
深く頭を下げた。
サーティーア国の言語で。
「俺たちは毒草を全て消して国に帰るか」
〈おう、帰ろう!〉
「ええ、私たちの家に帰りましょう」
リリアが集めた他の毒草も消して、サーティーアに戻ろうとグル、グレと話していた。
リリアはそれ以上なにも言わず、立ちつくしている。
そこに執事と側近を連れた、エルドラッドが駆け込んできた。
「エルモ……」
「……エルドラッド皇太子殿下」
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